帰る場所待機組となったクロノ、マール、ルッカ、エイラが各々にくつろいでいた。そんな時。 そういえばどの時代もお正月って同じ時期よね?何でかしら…」 不意に、ルッカがぽつりと呟いた。まわりの者が興味を示し、寄って来る。 「正月?…ああ、明日…っていうかもうすぐだよな」 明日は確か、現代でいう“正月”だ。しかし他の時代でも明日が正月となっている事は知らなかった。それはマールも同じな様で、指を口に当てて思案している。 「現代と中世は良いにしても、原始とか未来は暦が違うのに…なんでだろ?」 「きっと時間軸のズレが一定で進んでるのよ。…あ、でもそれだと暦が一緒じゃないから…」 疑問符を頭上に描いている二人を余所に、エイラが突然口を挟んだ。 「正月?…みな、肉食う、宴か?アレ、楽しい!」 「また宴?前行った時もやってたよな?」 つい先日原始に行った時も宴と称して一晩中騒いだものだった。半ば呆れてクロノが言うが、エイラは気にも止めない。 「イオカ、宴多い。気が向いたら、騒ぐ、踊る、あと――酒飲む!」 「…ほどほどにしとけよ、エイラ」 エイラは酒を飲むが、いつもその後が問題だ。酔い潰れた挙げ句二日酔いになり戦闘不能状態になるのがオチなのだ。 「ねぇ、クロノはどんな風にお正月過ごしてたの?ジナさんお手製のお節とか食べてた?」 ルッカはまだ何やらぶつぶつと呟いていたが、考える事を放棄様子でマールが問い掛けてきた。 …お正月、か…。 クロノの脳裏に色鮮やかに重箱に詰められたお節やら、熱々の餅やらが浮かんできた。ごくりと唾を飲み込む。 今年くらいは帰ろうかな…などと思ったが、マールとルッカが今まで帰省を渋っていたのを思い出して断念する。 流石に自分だけ帰る、などとは言い出せなかった。 「…俺は普通だよ。母さんの作ったお節とかお雑煮食べて、ごろごろしてるだけで」 クロノが言うと、エイラが怪訝な顔をした。 「おせち?なんだ、それ」 「現代で正月に食べる料理の事なんだよな。例えると――宴に欠かせない食べ物、みたいな感じでさ」 「――肉。か、岩石クラッシュ」 どうやら例えが悪かったらしい。上手く理解されなかったようだ。 「〜〜だから、それはそうなんだけど…」 うーん、と頭を掻いたクロノにマールが付け足す。 「美味しいんだよ!私もお城で食べてたんだけど、野菜とかも沢山入ってるし」 「――エイラ、野菜より、肉好きだ。ハイパー干し肉食いたい!」 「…エイラらしいねっ」 マールが大仰に手を広げる。エイラには手の込んだお節料理より豪快に焼いたハイパー干し肉のほうが喜ばれそうだ。などとクロノは思った。 すると、ずっと一人で思案していたルッカがやっと口を開いた。 「うーん、わかんないわ。大体これは科学じゃないものね。仕方ないっちゃあ仕方ないわ」 珍しくルッカもお手上げの議題の様だった。それを聞いてぽつりとクロノが呟く。 「…世の中の全ては科学で証明できるって豪語してたの誰だっ…てっ!?」 ぱこん、妙に間の抜けた音が響く。ハンマーで殴られたらしいが、音の割には威力が強かった。痛い。 文句を垂れるクロノを軽く一瞥したルッカはにっこりと笑った。 「科学と論理は違うのよ」 「あ、そうですか…でも」 ―ぱこん。再び。辺り所が悪く、クロノは頭を抱えて呻いた。 「――ってぇ!」 そんなクロノにエイラが語りかける。 「クロ、痛いか?じゃあエイラのキッスで…」 「〜〜っ!ケ、ケアル!」 言うが早いか、マールが慌てて呪文を唱えた。クロノの身体が緑に包まれる。 それを見たルッカがあら、とからかう様に笑った。 「エイラのキッスに任せたほうが体力使わなくてすむんじゃないの?マール」 「ま、まま魔法の練習だから…っ」 「? どうした?マール。顔赤いぞ」 クロノがきょとんとして言うと、マールはそっぽを向いてしまった。 「クロノは何時までたっても鈍感ねぇ」 「ど…ドンカン?何が?」 「ふふ」 含み笑いをしながらルッカがあーあ、と伸びをした。 「それにしても、お正月ねぇ…。あたし、1回家帰ろうかしら」 その言葉に虚を突かれた様にクロノがたじろぐ。今までルッカがそんなことを言い出した事はなかったのだ。 「へ?マジで?」 「ええ、お母さんの足も治った事だしね……たまには帰らないと」 それを聞いてああ、と納得した。同時にルッカが家に帰りたがらなかったのはララの足が原因だったと悟る。 するとエイラとマールも同意を示した。 「私も父上と仲直りしたし…一日だけ帰ろっかな」 「エイラ、また、キーノと宴する!」 マールまでそう言い出した。 エイラなどはもう躊躇無く原始に繋がる光の柱に飛び込もうとしている。 「クロ、ルッカ、マール!また来年!」 小さな澄んだ音が響き、光が立ち上る。 「え、ちょ、エイラ――あ、行っちゃった」 「流石エイラ。自由人…」 エイラが光の向こうに消えるのを見て、自身の帰りたいという気持ちが増幅した。…決してホームシックでは無いのだが、手料理が恋しくなるときもあるのだ。 それに二人も帰りたいというようなことを言っていた。別にこの状況で帰ると言っても何の問題にもならないだろう。 「…よし、じゃあ俺も帰ろうかな。――二人はどうする?」 クロノが腰を上げると、ルッカとマールも立ち上がった。そして晴れやかに笑う。 「帰るわ。偶には家で発明も良いものよね」 「私も!……あ、でもみんなは…」 マールが思い悩むように語尾を濁らせた。きっと今は中世に行っている三人のことを思ってだろう。 今にも現代へ行こうとしていたルッカもはたと足を止める。 「あ、忘れてたわ。…私たちが全員居なくなってたら、まずいわよね…」 「だよ、な…」 三人が沈黙していたその時、ずっと眠っていたはずのハッシュがゆっくりと言った。 「…お前さんたちは帰る家があるんじゃから帰っておやり。もし他の仲間が戻ってきたらそう伝えておいてやろう…」 「! 有難う、ハッシュ!」 「なに、たいしたことじゃないさ」 そう言うと、ハッシュはまた鼻提灯を膨らませて寝入ってしまった。 「じゃあ、帰ろうか!!」 「ロボとカエルと魔王には悪いけど…。俺も帰りたいや」 久々にジナの手料理が食べられそうだ、とクロノは期待に胸を膨らませた。ちらりと二人を見遣ると各々何か楽しみがあるようである。 「行きましょ!」 ルッカの声と同時に、三人は仲良く光の柱に入った。 ――帰る場所があるというのは良いものだな、と思いながら。 空間を抜けた先には、リーネの鐘が一年の始まりを告げていた―――。 ←章一覧┃←Menu┃←Top |