調味料の上下関係




「…ったく、魔王様の命令だったから仕方ないにしたって、そうじゃなかったらこんな面どっちい事お断りなのヨネ」
向かって来る王国の騎士を魔法で薙ぎ払いながらマヨネーは文句を垂れた。
「…まぁそう言うな。魔王様の御力はお前も分かっているだろう?」
ソイソーがマヨネーを宥めつつ魔法によって負傷した敵を切り裂いてゆく。
「そう言っちゃそれまでなのヨネ。…魔王様のお力と、あの美貌ったら最高なのヨネ〜」
「…」
沈黙と同時に罵声が飛んだ。
「マヨネー、ソイソー!何をしておる!早く片付けんと魔王様のご期待に背く事になるのだぞ!」
と、言いつつビネガーは氷の防壁を張っている。
「…」
無意識に死体をビネガーの方に放った。
「おぴょぉっ」
ビネガーの叫び声にマヨネーがあら、と声を漏らした。
「ごめんなのネ!」
ソイソーがまた口を開いた。
「…目の前の敵に専念しろ。俺はムクロ共を操る」
「オッケーなのネ」
投げキッスをするマヨネーを無視してソイソーは神経を集中さた。
…この奇妙な関係が始まったのは、何年前だっただろうか。


◇+----*†*----+◇


鬱蒼と木々が生い茂る深い森の中。
周りの静けさを打ち破る様な怒鳴り声が響いていた。
「何が“男”なのヨネ!どっからどうみても“女”にしか見えない筈なのヨネ!!」
ハートマークと共に火の玉が飛んで行く。
「ええい、煩いっ!その気は男の物だろうが!」
氷の防壁の中からビネガーが叫んだ。
「醜男のくせに何言っちゃってんのヨネ〜。あたいに意見して良いのは美男だけなのヨネ!」
マヨネーは氷の回りを火で覆った。
「フッフ、この壁は全ての攻撃を防ぐのだ!」
不意にマヨネーが攻撃を止めた。
ビネガーが勝ち誇った様に笑ったその時、背後に感じた気配。
「……何だ、騒がしい」
木々の陰から現れた剣士。
剣士…ソイソーが近付く度に、殺気が漂ってきた。
―こいつはヤバい奴なのヨネ。
―出来れば関わりたくない。
「何をしている、男二人で」
ビネガーがちらとマヨネーを見た。
―そうら言ったこっちゃない。やはりワシの目に狂いは無かったのだ。
―あたいの美しさが分かんない奴なんて宇宙のゴミ以下なのヨネ〜!
そしてマヨネーは眉間に皴を寄せてソイソーに向き直った。
「…カッチーンなのヨネ。いきなり来て何ほざいてんのヨネ」
「外見を変えるとは中々の魔力だが、生まれ持った性質は変えられぬ」
先に行動したのはマヨネーだった。
突然、宇宙の様な空間が三人を取り囲んだ。
「な……なななんじゃこりゃあっ」
「空魔士マヨネー様をナメて貰っちゃ困るのヨネ。此処なら誰にも邪魔されずにぶっ飛ばせるのヨネ」
「聞き捨てならんな。我が剣に敵う物か。外法剣士ソイソーの名にかけて、負けることはできん」
激しい攻めぎ合い。
マヨネーの魔法を薙ぎ払ったソイソーが剣を振れば炎でその剣の動きを鈍らせる。
激しい攻防。
…たまに降りかかってくる火の粉や刃にひやりとしつつ、ビネガーは防壁の中からただその様子を見ていた。
「…何見てんのヨネ。だいたいあんたもあんたなのヨネ。男、男って」
怒りの矛先がビネガーに向いた。
「そのような雑魚に構っている場合か?」
ソイソーがマヨネーに真空派を叩き付ける。
「ワシを雑魚と言ったな!おのれ!」
ビネガーも防壁の中から力を解放した。
キィン!ズズズ…ドオオォン!!!
…はっきり言って、もう目茶苦茶である。
「この禿とオカマが!」
「何だと!?」
「失礼しちゃうのヨネ〜。大体、アンタなんかに言われたくないのヨネ!!」
「じゃあかしいっ!男の癖に変な術まで使いおって」
「美しい物は強いのヨネ。…緑と青の怪物になんかにはこの美学は分かんないとは思うけ・ど〜」
「…先程から聞いていれば愚痴愚痴と何を言っている!戦いに集中せんか!」
「あ〜らあたいは何時だって真剣なのヨネ?ただ隣のお馬鹿ちゃんが五月蝿いだけで」
「何を小癪な!引っ込んでろ!」
「ムキーッ!言ってくれたわネ!」
等という漫才、いや戦いを小一時間程行った後。
不意に周りの空間が断ち切れた。
「…ちょっと力使い過ぎたのヨネ…」
と、マヨネーがへたり込んだ。
「ぐ…っ」
マヨネーとほぼ同時にソイソーが膝を着いた。
ただ一人、ビネガーだけは氷の防壁の中でニタニタと笑っていた。
「わしの勝ちだ!」
「「…っ」」
悔しげに二人が呻く。
「負けたからにはワシの言うことは何でも聞くのだぞ?」
「「…」」
さっと目を伏せる二人だったが、ビネガーさ構わず高らかに言い放った。
「貴様等はわしと共に“魔族の世”を作り上げるのじゃ!」
―…刹那、一際強く風が吹いた。


◇+----*†*----+◇


騎士を倒し、魔王城の扉をくぐったマヨネーとソイソーは昔話に花を咲かせていた。
と、言っても喋っていたのは殆どマヨネーだけだったが。
「あー懐かしいのヨネ。その時の話」
「まあな」
「絶対負けないと思ってたのにネー。ま、それからすぐに魔王様に出会えたから魔族の世を作る事も億劫じゃ無くなったのネ。魔王様ったらホントに美男なんだ・か・ら」
「…魔王様が仕えるべき主という点だけで同感だ」
「その上魔力まで……あ、魔王様」
魔王の姿を見つけマヨネーが投げキッスをする。
しかし魔王はそれを柳の如く受け流し、淡々と語りかけた。
「…遅かったな。手こずったのか?」
「多少の被害を被りましたが大した物ではありません」
ソイソーが答えると魔王が満足げに笑った。
「ほぅ…着実に計画は進んでいるな?」
「勿論なのヨネ。魔王様のご希望には沿えてると思うのヨネ」
「…ところで、ビネガーはどうした?死んだか?」
「いえそん「…っなこと無いです!ただちょっと…」
ソイソーの言葉を遮り何処からか沸いて出て来たビネガーが大声で叫んだ。
ずっと防壁を張っていた筈だが、その衣服は所々ほつれ、煤が付いている。
魔王が煩いとでも言うように眉をひそめた。
ふと、マヨネーが思い出した。
「そういえば、あたい達より先に行った筈ヨネ?」
「…ぐ」
「報告を急ぐ為と、俺達に敗残兵の始末をさせていっただろう?」
「ぐぐぐっ」
ビネガーが魔王の顔色をうかがう様に身体を縮込ませた。
「いや、その、あの。魔王城へ戻り、魔王様の部屋へ向かう途中トラップに嵌まりまして」
「……誰が仕掛けた?」
「あー…っと、ワシですかね…」
「…そうか。では罠を全て取り除け」
魔王がマントを翻してビネガーに背を向けた。
「おおおお待ち下さい〜ッ!魔王様!」
「……何であの時あたい達負けたのかしらネ?」
「…時の運に見放されたのだろう」
「…一応、あたい達の上官よネ?」
「……」
しばらくの沈黙の後。
二人は同時に深い深いため息を着いた。


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