「大ちゃーん。朝ご飯できたから下りて来なさーい」

日曜日の朝。
丹羽家では、いつも通りの朝を迎えている──はずである。

大助は階段を下りつつ、三ヶ月前のことを思い出していた。

三ヶ月前、大助は氷狩の美術品を盗むためにAsuka学園に転入した。
僅か一週間ではあったものの、様々な生徒達と知り合い、大助は色々と学んだ。
氷狩の美術品である『炎の鍵』を持っていたのがクラスメイトだったのは驚いたが、ダーク曰く物分かりの良い美少女のおかげで手に入れることが出来た。
―─儀式をした後に持ち主に返したのは異例だが。

一階に下り、大助がリビングの扉を開けた刹那──

「大ちゃぁぁん!」

笑子に抱きつかれた。
大助は嫌な感じを覚える。

(このパターン、前もあったような…)

恐る恐る、笑子に訊ねた。

「母さん、一体何が…」
「母子のスキンシップよ。偶にはいいでしょ?」

笑子の答えに、大助は胸を撫で下ろす。

「なんだ……また、仕事かと思って焦ったよ」
「さすがにそこまで頻繁には無いじゃろ。大助は心配性じゃのう」

大樹は微笑しながらお茶を啜った。

ここ最近、大助は二日に一回のペースで怪盗業をしていた。
実際に盗むのは相棒であるもう一人の自分、ダークだが、身体は共有しているため大助には過大な疲労を与えていた。
幼少期から鍛えられた大助も、さすがにこの状況が一ヶ月も続けば辛い。

今日明日の二日は久々の二日連休なので、ウィズと一緒にのんびり過ごす予定だ。

「大助、今日は何か予定があるのかい?」

小助の問いに、大助は「特に無いよ」と答えた。
その答えを待っていたかのように、すかさず笑子が大助に手紙を渡した。
大助は頭に疑問符を浮かべる。

「母さん、この手紙って誰から?」
「Asuka学園から転入手続きのお知らせよ」
「ふーん……ってえぇ!?」

思わず落とした手紙を慌てて拾いながら、大助は大きな瞳を丸くした。
一方、笑子は微笑し、大樹と小助は溜め息を吐いた。

「これってどういうこと!?」
「だから、大ちゃんは明日からAsuka学園に転入するの。今回の期限は無制限! 好きなだけいていいわよ」
「好きなだけって……仕事じゃないんだね」
「最近お仕事ばっかりだったでしょ? だから慰安旅行だと思っていってらっしゃい」

ニコリと微笑む笑子に、大助は「母さん…」と感動する。

『おい、大助。また車で二時間も掛かるような場所に転校させられるんだぜ? 梨紅はどうするんだよ』
「あ…そうだよ! 母さん、こっちの学校はどうするの?」
「大丈夫! 今回は特別な移動方法で行くから」
「特別な方法……?」

笑子は人差し指を立てて楽しそうに大助を説明する。

「今まで大ちゃんが盗んできた美術品の中に、次元を弄って移動する美術品があったの。ふふふ、大ちゃんがちゃんと盗んできてくれて助かったわ」
「じ、次元を弄って移動する?」

大助は意味が分からず、頭を抱える。
そんな大助に、小助が加えて説明する。

「その美術品を使うと、次元を移動するから時間のズレも生じるんだ。つまり、向こうでは一週間ぐらいなのが、こっちでは一日弱しか経たないんだよ」
「へぇ……凄いや。詳しい事はよく解らないけど、向こうに一週間しかいないなら学校には間に合うんだね」
「そうだよ。……大助、行きたくないなら行かなくていいんだぞ? 父さん達は別に反対しないから」
「ありがとう父さん。でも今回はちょっと行ってくるよ。皆のことが気になるし…」

大助の答えに、笑子はパァッと瞳を輝かせた。

「それじゃあ急いで準備しましょ! トワちゃん、手伝ってね」
「はい、奥さま!」

笑子とトワは慌ただしく準備を始めた。
その様子を、大樹と小助は微笑ましいと見ていたが……

「ちょ、ちょっと! 服ぐらい自分で着替えるから!!」

孫(息子)の叫びを聞き、二度目の溜め息を吐いた──。




to be continued...

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