【また明日】
裏葉君と一緒に帰れて嬉しい時間も、あと少し。私の家はすぐそこ。
「裏葉君、今日はありがとう」
「…同じだな」
「え?」
裏葉君は苦笑する。どうして苦笑するんだろう?
「初めて逢ったあの時と、同じ事言った」
「あぁ…覚えてたんだ」
「まぁな。嬉しかったし」
あれ? 今、裏葉君何て言った?
「なぁ優衣。今日の昼間の続きだけど」
もしかして、暮内君の質問の事かな? …裏葉君の気持ちが解るのは怖い。
だけど、それが裏葉君の正直な気持ちなら、私は受け入れるよ。
「オレは…」
でも、その前に私の気持ちを伝えたい。
「裏葉君!!」
「な、何だよいきなり」
「私、裏葉君が好き! 大好きなのっ」
私の突然の告白に、裏葉君は口をパクパクさせていた。顔が赤くなっているのは、恥ずかしいから?
「裏葉君が私をどう思っていても、私は裏葉君が好きだから……」
どうしよう。涙が出てきた。裏葉君にせっかく想いを伝えてるのに……。
「ご、ごめん。迷惑だね…」
「誰が迷惑って言った?」
裏葉君の言葉に、私は俯いていた顔を上げる。裏葉君は、怒ってた。何で?
「まったく、オレの台詞を無視して何を言うかと思えばそんな事か」
「そ、そんな事って酷い。必死に言ったのに!」
私が涙目で訴えると、裏葉君はまた苦笑する。
「男より先に言うなよ」
「…?」
「つまり、オレも優衣が好きだって事」
「……嘘」
「嘘言ってどうする」
裏葉君は私の左手を掴むと、ゆっくり歩き始めた。私は覚束ない足取りで付いて行く。
「あの時、オレは自分の歌声に悩んでた。だからお前が元気になったって言った時は嬉しかった」
それがきっかけだったのだと、裏葉君は私を見て微笑した。あぁ、やっぱり彼は素敵な人だ。
「オレの歌声を聴いて、あんなに喜んだのは優衣が初めてだったな」
「私、そんなに喜んでた?」
「あぁ」
楽しそうな裏葉君を見て、私は涙が止まった。私も笑わなきゃ。
「裏葉君、ありがとう」
「…ありがとうは聞き飽きた」
「な!? 素直に受け取ればいいのに!」
「他に言う事は無いのか?」
他に言う事? ……思いつかない。
「優衣、着いたぞ」
いつの間にか、私の家に着いていた。繋いだ手を離すのは名残惜しいけれど、明日もこうしていられるんだよね?
「裏葉君」
「どうした?」
「……また明日、逢おうね」
私の言葉に、暫く裏葉君は唖然としていたけど、彼は大きく頷いてから微笑した。
「また明日」
大好きな彼と素敵な約束。
*fin*
2008.03.21 完結
2010.04.06 修正