【帰路】


「紅。優衣を苛めるな」
「裏葉、やっと来たんだ。遅いよ」
「話をそらすな。優衣を苛めるなよ」

突然現れた裏葉君が暮内君の頬を抓る。モデルの顔に傷が……って違う!

「裏葉君、暮内君が泣いてる…」
「…悪い。やりすぎた」

裏葉君が手を離すと、暮内君は泣きながら下駄箱を去った。大丈夫かな…。

「優衣、帰るぞ」
「あ、裏葉君待って!」

急いで裏葉君を追う。そういえば、初めて裏葉君に逢った時も、こんな感じだった──

高校に入学した時、私は編入組じゃなかったけど、友達があまりいなかった。元々内気な性格で、周りに馴染めなかったんだ。
そんなある日の放課後。家に帰っていたら、凄く綺麗な歌声が聴こえてきた。その歌声を辿ると、そこには彼がいた。

『柳 裏葉君…』
『そこにいるの、誰?』
『あ、えっと、普通科の松原優衣です』
『ふーん…。それで、何か用?』
『その…歌声が聴こえてきたから』

そう答えると、裏葉君は私に近寄った。

『リクエストは?』
『へ?』
『特別に歌ってやるよ。何がいい?』
『ほ、本当!?』
『オレの気が変わらない内に言ったら?』
『うん! じゃあ……』

裏葉君は、私のリクエスト曲を嫌な顔をせずに歌ってくれた。それが凄く嬉しくて、私はすぐに彼の虜になってしまった。

『柳君、ありがとう! 私、感動しちゃった』
『…裏葉でいい』
『え?』
『オレも名前で呼ぶから、裏葉って呼べ』

その時の裏葉君の真っ赤な顔、今でも覚えてる。可愛かったなぁ…。

『分かった。裏葉君、今日は本当にありがとう』
『もう帰るのか?』
『うん。何だか元気になったし、今日はもう帰るよ』

すると、裏葉君は何故か歩き始めた。どうしたんだろうと首を傾げていると、裏葉君は振り返ってこう言った。

『送る。早く来いよ』

私は暫く、何を言われたのか解らなかったけど、解った途端、急いで彼を追っていた。

『待って、裏葉君!!』

あれから、もう一年経ったんだ…。

「優衣、遅いぞ」
「裏葉君の歩くスピードが速いんだよ…」

一年前の彼の歌声で、私は勇気を貰った。今、こうしていられるのは、裏葉君のおかげだね。

「ありがとう、裏葉君」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん。何でもないよ」

だから、このまま好きでもいいですか?──




大好きな彼と、楽しい帰り道。




to be continued...


2008.03.15 掲載

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