「お前、いい加減ソラから離れろ!」
「アンタこそ離れなさいよ!」
「あのぉ、二人共……喧嘩はダメだよッ」
「「ソラは黙って(ろ)!!」」
「は、はい……」

僕の平穏な生活は、何処に行ったんだろう……




〜護る者、護られる者〜




それは、ソラがOZに入って暫く経った時だった。

「ソラ、始末書は書き終わりそうか?」
「はい。いつも迷惑掛けてすみません……」

首を項垂れるソラの隣に座り、陽太は苦笑した。

「全然迷惑じゃないよ。……ほら、アラシも!」
「ソラに任せた」
「陽太先輩、僕が書くから大丈夫です!」

ソファーで寝ているアラシは、ソラの返事を確認すると同時に瞼を閉じた。
アラシの怠けぶりに、千尋は悪態つく。

「このバカ犬はいつになったら真面目に働くんだぁ?」
「千尋さん……一応、アラシ君も頑張ってるんです」
「ソラ君はアイツに優しすぎだって!」
「そんな事……」

千尋はズイッとソラに顔を近づけ、更に言葉を畳み掛ける。
千尋から小言が出るたびに、ソラは苦笑するしかなかった。
多少誤差はあるが、千尋の指摘は大体合っているのだ。

「千尋、その辺にしなさい」
「でもさ──」

千尋が何かを言いかけた時──


「ソラぁぁぁぁ!」


扉が、豪快に開かれた。

「あぁ! また扉が壊された……」
「千尋、また修理しないといけないな」

陽太は自身の顎に手を当てながら、うーんと唸った。
一方、千尋はギャーギャー騒いでいたが……

「天狗、邪魔よ!」

一人の少女によって、有無を言わさず黙らされた。
扉を壊した少女──梶原遥は、ソラが以前バイトをしていた鑑識課でバイトをしている。
つまりはソラの穴埋めをしているのだ。
そんな遥は、実はソラの事が好きだったりする。
そして今日も、好きなソラに会う為にこうしてきたのだが……

「遥さん、毎回扉を破壊しないでほしいのですが…」
「ごめんね、ソラ。でも、ソラにどぉしても会いたかったの」
「で、でも、だからって扉を壊さなくても……」

ソラが遥の対応に困っていると、ソファーに寝ていたアラシが、上体を起こした。

「うるせぇ……。ん? お前、また来たのか!?」
「あ、狂犬!! アンタまだソラの近くにいるの!?」

遥とアラシは、犬猿の仲だ。
ソラが好きな遥にとって、いつも傍にいるアラシが嫌いだ。
一方、アラシはソラの近くをうろつく遥が気に喰わないらしい。

遥とアラシが言い争っていると、壊れた扉の向こうから椿とメルが顔を出した。

「もしかして、梶原が来てるのか?」
「もしかしなくても来てるよ、椿」

椿の問いに、陽太は明るく答える。
陽太の答えに、椿は頭を抱えた。

「これでは任務の話が出来ないな……」
「椿様、どうするんですか?」

メルは首を傾げながら椿に問うた。
椿は暫く思案した後、覚悟を決めた。

「仕方ない。少々ややこしくなるが話すか。……一条!」

椿はソラを呼び、雨宮部長の伝言を伝える。

「アラシと共に任務に行ってくれ。今日の任務はパトロールだけだからすぐに終わるだろう」
「分かった。それじゃあ、アラシ…く……ん……」

ソラがその時見たものは……

「大体アンタ強いの!?」
「あ゙ぁ゙? もう一回言ってみろ!」
「狂犬にソラの護衛が務まるかって訊いてんの!」
「お前よりはマシだろ!!」
「なんですってぇ!」

遥とアラシによる口喧嘩だった。
ソラは慌てて止めに入るが、勿論二人に敵うはずがなく、結局陽太が二人を止めた。

「ほら、早くしないとソラが一人で行っちゃうぞ」
「!? ソラ、行くぞ!」
「あ、私も行く!」
「何でお前が来るんだよ!?」
「アンタだけじゃ不安だからよ!!」




二人の口論は、パトロール中も続いた。
一体いつまで続くのだろうかとソラが思っていると、ふと目の前に何かを見つけた。
やがて、こちらに向かってくるソレは、ソラに一つの確信を与えた。

「アラシ君! あれ、ひったくりだ!!」

ソラの呼び声にアラシは素早く反応し、一瞬で犯人を捕らえた。
その素早さに、遥は唖然とする。

(これが、アラシの力……)

いくら武道家であっても、所詮自分は人間。
狼獣であるアラシの能力に、遥は自分の無力を悟った。
犯人を逮捕した後、三人は警察署へと戻っていた。
アラシは、ソラと遥の一歩先を歩きながら、しかし速度はゆっくりと歩いている。
遥は、隣のソラに話しかけた。

「ソラ……アラシは、ソラにとって何?」
「え? うーん……大切なパートナーかな」
「そっか……そうだよね」

遥の表情が暗くなる。
ソラは自分が何か言ってしまったのかと慌てる。
遥は、ソラにニコリと笑った。

「私、優しいソラが大好きよ。だからソラを護ろうと思った。ソラの特別になろうと思ったの。……でも、ソラにはアラシがいる。私が入り込む隙間なんて無いんだよね」
「遥さん……」
「ソラを護るのはアラシに任せる。でも、やっぱり特別になるためにソラを護りたい」
「あの、気持ちは凄く嬉しいですけど……」

ソラは言いにくそうに、たどたどしく遥に告げた。

「アラシ君は、僕の護衛じゃありませんよ。パートナーなんです。だから、無理に僕を護ろうとしなくていいんです」
「? つまり、どういうこと?」
「えっと、上手く言えないんですけど、僕を護る事が僕の特別になるんじゃなくてですね……と言うか、なんだか女の子にまで護られる僕の立場が……」
「……ごめん、よく解んない」
「つまり、僕を護ってくれる人イコール特別な人じゃないんです」

ソラはアラシの後ろ姿を見る。
つられて遥も彼の背中を見た。

「アラシ君は、僕を護ってくれるから大切なパートナーじゃないんです。例えアラシ君が僕を護ってくれなくても、それは僕が弱いからじゃないですか。第一、OZのメンバーなのに僕が弱いのがいけないんです」
「ソラ……?」
「だから、遥さんは無理に僕を護らなくていいんです。僕、頑張って強くなりますから!」
「でも、私は」
「大丈夫です。僕にとって、遥さんは充分特別な人ですよ」

ソラの言葉に、遥は瞳に涙を浮かべた。

「いつも護られてばかりの僕ですけど、僕だって遥さんを護りたいんです」

ソラは立ち止まり、遥に手を差し出した。

「これからは、僕に護らせてください」
「……はい!」

遥は涙を拭い、ソラの手を取った。

「まだソラに他人を護るのは無理なんじゃね?」

二人の甘い雰囲気を、アラシが破った。
遥は、アラシに向けて殺気を放つ。

「よくも邪魔してくれたわね、狂犬……!」
「そしてソラ、まずは自分を護れるようになってから言え」
「う……ご尤もです」
「私を無視しないで! アラシ、今日こそ決着をつけるわよ! やっぱりソラは私が護るんだからッ」
「ほぉ。やるか?」
「二人共、喧嘩はダメだってばッ」
「「ソラは黙って(ろ)!!」」

こうして、二人の喧嘩は再開した。
ソラは何も出来ずに眺めていたが、少しほっとした。

(遥さん、元気になったみたいだ……。良かった)

初めて出会った時から、ソラにとって遥は気になる少女だった。
しかし、いつも彼女は「ソラを護る!」と意気込んでいた。
普通ならば男が女を護るのではないかと思っていたソラにとって、この意気込みは悲しいものだった。
女に護られる男は、ダメなんじゃないか、と思ったのだ。
しかし、今日自分の気持ちを言えてすっきりした気がした。

「ソラを護るのは私なんだから!」
「女なんぞに護られなくてもいいんだよ!」
「女だからってナメないでよ!!」

(まだまだ、僕が遥さんを護る日は遠そうだけど……)

アラシと取っ組み合いの喧嘩をしている遥を見て、ソラは溜め息を吐いた。




*fin*




自分でも意味が解らない話です(←)とりあえず陽太くんと椿くんが書けたからそれで満足です(注:これはソラ夢です)

2009.01.31 掲載
2010.04.06 加筆修正

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