「裏葉くーん! どこですかー」
あたしは愛譚学園内を隅から隅まで走り回っていた。
何故なら、愛しい愛しい裏葉くんにバレンタインのチョコレートを渡すため!
でも、いくら捜しても裏葉くんは見つからない。
一体どこにいるのかな……?
あ、裏葉くんのお友達の暮内くんを発見!
暮内くんに聞いてみよう。
「暮内くん!」
「あ、遥ちゃん。そんなに慌ててどうしたの?」
「あのね、裏葉くん捜してるの。暮内くんは知らない?」
「裏葉ならさっき声楽科の教室で見たよ」
「はっ!? 声楽科の教室か! それは失念してた……。ありがと、暮内くん! あ、これお礼ね」
裏葉くんの居場所を教えてくれた暮内くんに、配布用の義理チョコをあげて、あたしは声楽科へと全力で走った。
「これでいいの? 裏葉」
「……あぁ」
暮内くんと裏葉くんがそんな会話をしているなんて知らずに――。
「結局いなかったなぁ、裏葉くん……」
声楽科の教室にも裏葉くんはいなくて、結局放課後になった今まで一回も逢えなかった。
うぅ、どうして今日は逢えないのかな?
も、もしかしてあたしを避けてるとか!?
もしそうだったらどうしよう……。
「遥!」
あれ、今日逢えなかったからか、とうとう空耳まで聞こえ始めたよ。
「遥!」
「きゃっ」
ぐいって肩を後ろから引っ張られて、思わず倒れそうになる。
なんとか脚で堪えて、後ろを振り返った。
そこには、息を切らしながら立つ裏葉くんがいた。
あれ? これも幻覚かなぁ?
「バカ、幻覚じゃない」
「え、嘘!?」
パシッて軽く肩を叩かれて、現実なんだと思い知らされる。
え、じゃあ今、目の前にいるのは本物の裏葉くんだよね?
これはチョコレートを渡すチャンスじゃないですか!
「裏葉くん、いつも素敵な歌声をありがとう!」
そう言いながら鞄の中を探る。
あぁ、どうして早くチョコ見つからないの!?
「遥、これ」
「ふぇ?」
ぐいっと目の前に差し出されたのは、緑の小さな箱。
うわぁ、裏葉くんと同じ色だ!
「いらないのか?」
「あ、いるいる! ……でも、これって何?」
首を傾げながら聞くと、裏葉くんは照れながらボソッと答えた。
「チョコ」
「……え?」
「逆チョコ。今、流行なんだろ?」
「う、裏葉くんが逆チョコ……!?」
これは夢なのだろうか?
まさか裏葉くんから逆チョコを貰えるなんて……!?
「なんだよ、おかしいか?」
「ううん。全然! ありがとう」
「……ん」
それにしても、どうして放課後なのかな?
別に朝でも昼でもいいのに……。
それを裏葉くんに訊いたら、裏葉くんは答えてくれた。
「遥より先に渡すには、遥がチョコを持っていない時だろ? でもお前は朝から授業中までチョコを握りっぱなしで、渡す暇がなかった。だから敢えて放課後まで延ばした」
「あぁ、放課後なら帰るから、鞄に入れてるもんね」
現に、先に渡されたし。
裏葉くんって頭良い!
「でもそこまでしてくれるなんて……自惚れちゃうよ、あたし」
そう言ったら、裏葉くんは踵を返した。
あれ、あたし悪いこと言っちゃった?
「自惚れてもいいけど、スキンシップは程々にしろよ」
「…………うん!」
Chocolate battle!!
(彼の勝利で幕を閉じた)
*fin*
今年のVD小説でした。現在フリーではないのであしからず。裏葉が策士になりました(笑)
2010.06.24 掲載