※病弱設定




「……昨日までは体調が優れていたのに、どうして当日になって弱いのかな、あたし」

今日はバレンタインデー。
あたしは昨日、本と睨めっこしながら頑張ってトリュフを作った。
でもそれが災いしたのか、普段から病弱なあたしは体調を崩して寝込んでしまった。
今はだいぶ楽になってきていて、なんとかベッドで上半身を起こせるようになった。

ぼーっとする頭で、トリュフを渡す相手であった彼のことを考える。
ある日路地裏で気分が悪くなって倒れそうになったあたしを、さっと支えてくれた彼。
名も知らない彼にどうしてもお礼がしたくて、バレンタインも兼ねてトリュフを作った。
彼のことを一生懸命想いながら作ったのに、渡すこともできないなんて……。
でも、今思えば名前も知らないのにどうやって渡すんだろう?
そんなこと考えてなかった……。
それを思うと、渡せなくなって良かったのかもしれない。

机の上にポツンと置かれた、綺麗にラッピングされた箱を見る。
明日、体調が良くなったら食べようかな……?


トントン、トントン。


軽めのノック音が扉の向こうから聞こえた。
あたしの部屋の扉をノックするのは両親ぐらいだから、誰かということを気にもせず返事をする。

「はーい」
「体調はどう?」

扉の向こうにいたのは、予想通りお母さんだった。
お母さんは水が入ったカップを机に置いて、傍にあった椅子に座る。

「うん、だいぶ良くなったよ」
「じゃあお客様を入れても大丈夫かしら?」
「お客様?」
「えぇ。なんでも、遥のお見舞いに来たそうよ」

お見舞い? 一体誰だろうか?
あたしにはそれが誰なのか全く想像できない。
お母さんはニコニコしているだけで、誰かは教えてくれない。
あたしはお母さんにそっくりだから、なんだか自分が笑っているようで変な感じだ。

「遥、あとで紹介してね」
「え?」

寧ろあたしが紹介してほしいんだけど。

お母さんはその人を呼びに部屋を出て行った。
誰が来るのかな……?


トントン、トントン。


「はい。どうぞ」

あたしの返事の後に扉の向こうから現れた人は、綺麗な金髪を持った彼だった。
え、どうして彼がここに!?

「あぁ、やっぱり貴女でしたか」
「あの、どうして貴方が……?」
「実は貴女のお母様と先程市場で出会ったんですよ。お母様の顔と貴女の顔があまりにもそっくりだったので、娘さんはいませんか? って訊いたら、いると仰って……。僕も正直驚いています」

彼は綺麗な顔で笑った。
あたしは顔が熱を持つのを感じる。
うぅ、顔が赤いかも……。

「顔が赤いですが、熱でもあるのですか?」
「い、いいえ! 大丈夫です。あの、わざわざ見舞いに来てくださりありがとうございます」
「貴女がどうしているか僕が気になっていたんです。お礼を言われることじゃありません」
「あ、あの」
「はい?」

あたしは、ずっと気になっていたことを訊いた。
そう、彼の名前だ。
彼は嫌な顔一つせずに答えてくれた。

「僕の名前はエドワード・H・グラッドストーン。エドワードで構いませんよ」
「あ、あたしは遥です」

そういえば、あたしトリュフを作ったんだ!
今、渡さないといつ渡せるか分からない。
あたしは机に手を伸ばして、箱を手に取った。
そして、エドワードさんの前にグイッと突き出した。

「こ、これ受け取ってください!」
「これは……」
「この前のお礼も込めて、トリュフを作ったんです。今日はバレンタインデーだし、よかったらどうぞ」
「……」

あれ、もしかして迷惑だったのかな?
エドワードさんはじっと箱を見つめる。
うわぁ、睫毛長いなぁ……。

刹那、エドワードさんはふわりと微笑んだ。

「ありがとう、遥さん。大切に食べさせてもらうよ」

その瞬間、あたしは本当に倒れるんじゃないかって思った。




Valentine Smile
(彼の微笑みは最高級)




*fin*




今年のVD記念に書いた小説です。一応期間限定でフリーでした。現在フリーではありませんのであしからず。

2010.06.24 掲載

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