※『僕の名前を呼んで』の続編設定




「遥、何してるの」

ある日の昼下がり、雲雀がリビングに行くと、遥の丸まった背中が見えた。
遥の前に立ち、雲雀は膝を曲げ、椅子に座っている遥に視線を合わせる。
しかし、俯いている遥の表情は見えない。
何をしているのか……それは雲雀には分からない。
雲雀はもう一度遥に問い掛けた。

「遥、何してるの」

試しに肩を揺すってみる。
……返事は無い。
寝ているのかと思い、何か掛ける物を持って来ようと立ち上がり、遥から離れる──が。

「…………」

寝ていると思っていた遥が、雲雀の服の裾を握っていた。
引き止められた雲雀は、一度溜め息を吐いてから話し掛ける。

「遥。起きてるなら返事しなよ。無駄な行動をするところだった」
「──い」
「ん? 聞こえないよ?」
「……ごめん、なさ、い」

顔を上げた遥の瞳から、涙がぼろぼろ溢れていた。
雲雀は表情には出さないものの、内心驚きながらもう一度膝を曲げ、視線を合わせる。

「何について謝っているか、分からないな」
「きょ、恭弥さんの、マグカップ、割ってしまいました……」

遥が指差す先には、丸められた新聞紙がある。
どうやら、割れたマグカップは粗方片付けたようだ。
──と、そこまで考えて、雲雀は遥の両手を取った。
遥は驚き、雲雀を見る。

「恭弥、さん……?」
「遥、怪我は?」
「え、怪我……ですか?」

雲雀は遥の両手を隅々まで見て怪我が無いことを確かめると、ホッと息を吐いた。

「無いみたいだね」
「怪我なんて、あっても気にしないでください。どうせすぐ治るんです。でも、恭弥さんのマグカップは直らない……」
「遥」

雲雀は遥の手を、自分の両手で包み込んだ。
その行動に、遥の胸は高まる。

「遥の手は、大切な手だ。傷付けていいものじゃない」
「恭弥さん……」

遥の涙は、意味を変えて流れる──


「僕の遥は、自分を大切にする女の子だ」


「……はい」

雲雀は遥をそっと抱きしめる。
遥もそれに応えて、雲雀の背中に腕を回した。




大切なのは
(キミの全てなんだ)




「遥、出掛けるよ」
「何処に行くんですか?」
「マグカップ買いにだけど、文句無いよね」
「……はい」




*fin*




復活で雲雀夢でした。一応前回書いた話の続きです。以前掲載していた時は楽器を弾いている設定だったのですが、色々と面倒なので変えちゃいました(←)お気付きの方もいらっしゃると思いますが、この小説は以前オリジサイトの方で掲載していたものです。それを加筆修正してこちらに再掲載しました。

2010.04.14 掲載

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