※16巻、原作の『黒の教団壊滅事件再び』より以前の設定




「おいっコムイ! 早く戻せ!!」

(早くしねーと、アイツが帰って…)

「ユウ! ただいまっ」

時、既に遅し。
神田ユウは、大失態をしてしまった。




〜キミと共に〜




遡ること数時間前。
科学班が作った変な薬によって、神田は小さくなっていた。
とてもじゃないが、プライドが高い神田は人前に出れるようではない。
何としてでも早く戻りたい神田は、科学班(主に室長)に戻すよう説得していたのだが……

「あれ? ユウ、小さくなった?」

よりにもよって、一番見られたくない女に見られてしまった。

彼女──遥は黒の教団に所属するエクソシストである。
そして、遥は特別な力を持つ故に、レベル4が教団本部を襲撃している間、別所に避難させられていた。
レベル4を撃破した後、遥が戻って来ることは承知していた。
だから早く戻りたかったのに……

「うるせー! 俺は小さくない!!」

結局見られてしまった。

ムキにって怒る神田に、遥は微笑する。

「ふふっ、ユウ可愛いよ」
「全っ然嬉しくねーし!!」
「あ、ユウ照れてるさ!」
「神田が照れるなんて貴重ですよ」
「テメェらは黙ってろ!!」

早く戻りたかったもう一つの理由は、これだった。
ラビとアレンが、二人してからかうのだ。(因みにラビも小さい)

「ユウ、照れることないさ」
「そうですよ。ここは大人しく可愛がられて……ギャー! どこから刀を出したんですか!?」
「テメェらは……斬る!!」

ギャーギャー騒ぎながら、神田は愛刀がないので、代わりの刀を手に、ラビとアレンを追い掛け回す。
遥は暫くそれを眺めていたが、あまりにも長引きそうだったので止めることにした。

「ユウ! その辺にしてあげて」

背後から神田の胴に腕を回し、ひょいっと持ち上げる。
普段だったら有り得ない光景に、神田は羞恥で顔を真っ赤にした。

「おい、遥っ。放せ!」
「ダメ。放したら二人を追い掛け回すでしょ?」
「……」

漸く大人しくなった神田に、遥は笑顔を見せた。

「よろしい。じゃあ行こっか」

そのまま歩き始めた遥に、神田は声を上げる。
しかし、遥は気にしない様子でそのまま歩いた。

神田と遥を見ていたラビとアレンは、感嘆の声を漏らした。

「さすが遥! 手慣れてるさ……」
「神田を止められるのは遥だけですからね……」
「「いつも大人しいなら助かるのに」」

二人の願望は、見事なまでにハモった。




神田は遥に抱かれたまま歩いていた。
否、正確には歩いていないが。
結局、あれから放してもらえなかった。

「おい、遥。いい加減……」
「随分荒れちゃったね、教団」
「……あぁ。戦場だったからな」

神田が首を回すと、視界に入るのは壊れかけている教団、そして怪我をした人々だった。
皆、無傷で済んではいない。
しかし、命は助かった。

命があれば良い。
誰かがそう言ったような気がする。
あれは誰だっただろうか。

「私、すごく心配したんだよ? ユウの命が尽きるんじゃないかって…」

神田に回っている遥の腕に力が入った。
神田が遥の顔を見ようと顔を上げると、遥は瞳に涙を浮かべていた。

「帰って来たら、ユウが元気でいるの見て安心した。怪我はいっぱいしたかもしれない。でも、いつか治るもんね」

あぁ、そうだ。
命さえあれば良いと言ったのは、遥だ。


『ユウ、絶対生きて。命さえあれば、またやり直せるから…!』


あの時も、遥は同じような表情をしていた。
瞳に涙を浮かべ、神田に生きろと懇願していた。

また、遥に悲しそうな顔をさせてしまった。

「遥。俺は死なない。だから泣くな」

「……私も、みんなと一緒に闘いたかった! ユウと一緒に闘いたかったっ」

「遥……」

遥が別所に避難させられていた理由。
それは彼女のイノセンスに関係していた。

遥のイノセンス、それは──


全てを無効化する力。


使い方次第では、仲間どころか世界さえ無くしてしまう力。
それ故に、遥は戦闘に参加出来ない。
彼女が参加するときは、最期だから──。

「私はいつも見ているだけ。エクソシストなのに、何も出来ないんだよ。私の存在意義って何だろう…」

遥の言葉に、神田は違うと否定した。

「遥が何も出来ないなんてあるか。お前はそのままで十分なんだ。無事に、元気で俺の傍にいれば、それで……ッ!」

そこまで言って、神田は自分が言っていることに気付いた。
何気に恥ずかしいことを言っているではないか。
神田は思わず舌打ちをした。

一方、遥は神田の言葉に顔を赤くしていたが、急に何か思いついたように方向転換した。


「おい、何処に行くんだ!?」
「食堂! 安心したらお腹すいちゃった。一緒にお蕎麦食べよう?」

そう言った遥の瞳に、涙は浮かんでいない。
代わりに、何か輝いていた。

神田はその輝きに目を細めながら、頷いた。




俺は、これからもお前と共に──。




*fin*




今までD灰書いた事ないなぁ……と思っていたので、友人が「神田夢を書いて」と言った日には色々と燃え上がりました(笑)そして16巻を見た瞬間、「これだ!」と叫びました(ぇ)こうして出来上がったのが、このお話です。お気付きの方もいらっしゃると思いますが、この小説は以前オリジサイトの方で掲載していたものです。それを加筆修正してこちらに再掲載しました。

2010.02.25 掲載
2010.04.06 修正

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