「藍さん、今日が胡鶴の誕生日って本当!?」
「そうよ。今回は何をあげようかしら」
「去年は何をあげたの?」
「確か……嫌々だったけど、苑兎と唐辛子一年分だったわね」
「嫌々って……藍さんは本当に苑兎さんが嫌いなんだね」

あたしが笑うと、藍さんはそれから苑兎さんの悪口をたくさん言った。
苑兎さん、相当嫌われてますね。一体何をしたんですか。

「遥は何をあげる? アタシは三味線弾こうかなぁなんて思ってるんだけど」
「藍さん三味線上手だもんね!」
「ふふ、ありがとう。今年はモノより思い出よ!!」

藍さんはやる気満々で自室に帰って行った。
あたしは何をあげようかな……。
藍さんみたいに何か弾けるわけでもないし、紬くんみたいに何か作れるわけじゃないし、苑兎さんみたいに……

「そう言えば、苑兎さんは何をあげるんだろう?」

思ったら即行動!
あたしは苑兎さんのもとに急いだ。

苑兎さんは城の庭にいた。
剣の稽古中らしく、手には竹刀、額には汗を掻いている。
大変そうだな……。

「苑兎さん、お疲れ様です」
「ん? 遥か。どうした?」
「今日は胡鶴の誕生日だと聞いたから、苑兎さんは何をあげるのか気になって…」
「そういえばそうだったな。俺は今年も唐辛子だから安心しろ」
「……? 安心って?」
「他の奴と被らないかどうか確かめたかったんだろ?」
「まだ決めてないけど、確かに被りたくはないかな」
「だろ? それにしても胡鶴の奴は何処に行ったか知ってるか?」

知らないと首を横に振ると、苑兎さんは溜め息を吐いた。
どうやら先程まで一緒に稽古をしていたらしいが、途中で脱走したらしい。
相変わらず胡鶴は稽古が嫌いみたい。

「胡鶴を見つけたら稽古に戻るように言っておきますね」
「助かる。……そうだ、遥」

踵を返して胡鶴を捜しに行こうとしたら、苑兎さんに呼びとめられた。

「何でしょう?」
「あいつはお前がいるなら何もいらないと思うぞ」

はて、それは一体どういうことだろう?
あたしがいつもドジやらかしておもしろいから、何もいらないということなのだろうか?
それとも……?
結局、苑兎さんはそれ以上何も教えてくれなかった。




「胡鶴ー。何処にいるのぉ?」

粗方胡鶴が行きそうな所は捜したけれど、胡鶴はいなかった。
うーん、あとは何処だろう……。

「遥、何やってんだ?」
「!? 胡鶴、今まで何処にいたの?」

肩を叩かれたと思ったら、後ろには胡鶴がいた。
暢気に唐辛子なんか銜えて、今まで捜していたこっちの身にもなってほしい。

「いや、ぶら〜っと散歩してた」
「もう、また稽古逃げ出したでしょ? 苑兎さんが捜してたよ」
「マジで? だって稽古なんてたりぃもん」
「ま、胡鶴らしいよね。じゃ、一緒に帰ろう?」
「ん。遥」

胡鶴が左手を差し出して来た。
あたしは意味が分からず首を傾げる。

「何、胡鶴」
「右手、出して」
「右手? ……はい」

右手を差し出すと、胡鶴は左手でぎゅっと握った。
突然のことに、あたしは顔を真っ赤にした。
だって、周りの人が見てる。
恥ずかしいよ……。

「胡鶴、どうして」
「今日はオレの誕生日じゃん。だから、今日だけはオレの我が侭聞いて」
「……今日だけじゃなくて、今までもずっと聞いてきたよ」

あたしがそう言うと、胡鶴は「そんなことねーよ!」と怒り出す。
あたしは思わず笑ってしまった。

「じゃあ今日は特別に聞いてあげる。何をしてもらいたい?」
「……たい」
「え? 聞こえないよ」
「オレと、恋仲になってもらいたい」
「……!?」

胡鶴の言葉の意味が解るのに、暫く時間がかかった。
恋仲って、それって……!!
お互い顔を真っ赤にしながら、あたしはこくんと頷いた。

「あ、あたしで良ければ喜んで」
「マジで!? やったー!」

そ、そこまで純粋に喜んでもらえると嬉しいな……。
でも、あたしは一つだけ言いたいことがあった。

「その代わり条件があるよ」
「え、何だよ」
「今日限定じゃなくて、ずっと胡鶴の傍にいたいな」

我ながら恥ずかしい!
でも、あたしは胡鶴が大好きなんだ。
好きな人とずっと一緒にいたいのは当たり前だよね?

「当たり前だろ? 遥は今日からオレの奥さんだし」
「そ、それは飛びすぎだよ…」
「でも将来絶対そうなるじゃん」
「そうだけど……」

胡鶴は、わーいとかやったーとかずっと叫んでた。
胡鶴が喜んでくれたなら、それでいい、かな?

「今日は最高の誕生日だぜ」

胡鶴が、凄くキラキラした笑顔を見せてくれたから――




Happy birthday to Kokaku!
2009.07.26




胡鶴、お誕生日おめでとう!藍と苑兎が言った最後のセリフには、それぞれ意味があります。藍のセリフ「今年はモノより思い出よ!!」には「モノをあげるより言葉よ」、苑兎のセリフ「あいつはお前がいるなら何もいらないと思うぞ」には「誕生日には他のモノよりお前が必要だ」という裏の意味があったりします。まぁ苑兎のセリフは殆どそのままの意味ですけどね(笑)胡鶴は絶対自分からは告白しないってか鈍そうだなとは思っていますが(酷)、今回は頑張ってみました。いざとなったらやる男だよ、彼は!

2009.07.26 掲載
2010.04.06 修正

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