「トーヤ!」
「!? び、びっくりした…。遥、急に大声で話しかけるなよ」
「ごめん…」

うなだれる遥を見て、トーヤは焦った。
別に、彼女に対して怒っているわけではない。
しかし、どうしても口調がキツくなるのは何故だろうか。

「今日はどうしたんだ?」
「あのね、今日は…」

遥は持っていたランチバスケットの中からゴソゴソと何かを探し、そしてやや小さな袋を取り出した。
やや小さめであっても遥の片手には乗らないらしく、彼女はそれを両手に乗せてトーヤに差し出した。

「これをトーヤにあげようと思って」
「ん? ……あ」

可愛くラッピングされた袋の中から、ほんのりと甘い香りが漂ってきた。
その香りに、トーヤは覚えがあった。

「マーシャルさんに作り方を習ったの。それで、今朝一人で作ったんだけど…」

遥は、俯きながら言葉を続ける。

「ジンジャーブレッド、トーヤは好き?」
「好きだぜ! くれんの?」
「うん。トーヤにあげる!」

遥から袋を受け取り、トーヤは上機嫌だ。
くんくんと鼻で匂いを嗅ぐと、食欲をそそられる甘い香りがする。
トーヤはニコッと笑った。

「ありがとな、遥」
「どういたしまして。じゃあ私は帰るね」

遥は踵を返し、トーヤは小さくなっていく背中を見送った。




「ただいまー」
「お帰りなさい。どうでしたか?」
「楽しかった! 今度はみんなで行こうぜ」
「そうですね。いつか見に行きましょう」

大道芸が来ていると聞いたトーヤは、昼食を食べてから見に行っていた。
生憎、エドワードとシーヴァは用事があるために行けなかった。

見て来た大道芸の話をシーヴァにしていると、エドワードが寝室から出て来た。

「トーヤ、お帰り」
「ただいま、エドワード」
「おや? トーヤ、マーシャルさんからお菓子を貰ったのかい?」
「そういえば、甘い香りが仄かにしますね」
「これは遥に貰ったんだ。帰る途中で遥に呼び止められて、これをくれた」

エドワードは、トーヤが差し出した袋を見る。
可愛くラッピングされたそれには、何かカードが挟まっていた。

「トーヤ、何かカードがあるぞ」
「ホントだ。えっと……」

『トーヤへ。お誕生日おめでとう!』

短い文だが、丁寧な文字で書いてある。
トーヤに対するお祝いの気持ちがとてもこもっていた。

「どうやら遥はトーヤの誕生日を知っていたようだね」
「どうして…?」
「以前わたしが遥様に申し上げたんです。せがまれてしまったので…」
「何で遥が俺の誕生日を知りたがるわけ?」

首を傾げるトーヤを見て、エドワードは溜め息を吐いた。

「女性が男の誕生日を知りたがる理由は一つだ」
「それは?」
「それは──」

エドワードの答えに、トーヤは思わず事務所を飛び出した。
シーヴァの慌てた表情や、エドワードの微笑もトーヤには見えなかった。




どうして自分が遥に対して素直になれなかったか漸く解った。
どうして遥からお菓子を貰ったことが嬉しいか解った。
トーヤは、自分の答えを伝えるために全速力で走った。

やがて辿り着いたのは公園だった。
トーヤが探している少女は、ベンチに座っていた。

「遥!」
「!? トーヤ?」
「あのさっ…ジンジャーブレッド、ありがとな」
「う、うん。喜んでくれて嬉しいよ」

俯く遥の隣に座り、トーヤは深呼吸をする。
少し間を開けて、トーヤは話し始めた。

「俺、やっと気付いたよ」
「何に?」
「……自分の気持ち」

トーヤは人差し指で頬を掻きながら、話を続けた。

「今日さ、俺の誕生日じゃん? だからエドワードとかアトウッドさんとか、みんな祝ってくれたんだ。でも、遥がお菓子をくれた時、一番嬉しかった。何でだろうって考えた時、エドワードが教えてくれたんだ」

『それは、相手が好きだからだろう?』

「俺、遥が好きだ!」
「!? ……ありがとう。私も、その、す、好きっ」

トーヤと遥は、互いに顔を見合わせて笑った。
お互い、顔が真っ赤である。

「そうだ。遥、一つ我が儘言って良い?」
「何?」
「カードには書いてあったけど、直接、言って欲しいんだ」
「…うん。トーヤ、お誕生日おめでとう」
「ありがと」


来年からは、キミと祝えますように──




Happy birthday to Toya!
2009.03.25




トーヤ、3日遅れだけどお誕生日おめでとう! どんな話を書こうかと悩んだ結果、何故かトーヤ視点っぽくなりました。何故なんだ…。途中、少し矛盾点がありますが、気にしないでください!(←)

2009.03.28 掲載
2010.04.06 修正

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