キミの笑顔が、頭から離れない。
今、キミは何をしているのだろうか──
〜キミの傍で 後編〜
あれからというものの、エドワードは遥の事ばかりを考えるようになっていた。
遥の祖母宅を訪ねた日以降、遥からの連絡は一切無い。
ということは、遥はエドワードの言葉を信じているのだろうか。
『おばあさんは、遠い国に旅行に行っているそうなんだ』
今更ではあるが、エドワードはあの台詞を言ったことを後悔している。
遥を助けるためとはいえ、彼女に嘘を吐いたのだ。
その事実が、エドワードを苦しめた。
「エドワード、これ女の子から預かって来たぜ」
買い物から帰ってきたトーヤが、エドワードに封筒を渡す。
中身を確かめると、中には少額のお金と手紙が入っていた。
エドワードは逸る気持ちを抑えて手紙を読み始めた。
エドワードさんへ
先日は依頼を受けてくださってありがとうございました。
お約束通り報酬を入れています。少ないですが、受け取ってください。
あれから、私はお祖母ちゃんに手紙を書いていません。その代わりに日記を書いています。お祖母ちゃんが旅行から帰って来たら見せるつもりです。
私の叔父によると、お祖母ちゃんは暫く帰って来ないそうです。だから、お祖母ちゃんと会えない間、日記を書いて話題を溜めようと思います。
エドワードさん、色々とありがとうございました。本当に感謝しています。
直接手渡せないことをお許しください。
遥・梶原
「なぁ、エドワード」
手紙をじっと見つめるエドワードに、トーヤは話し掛ける。
「封筒を渡した女の子、淋しそうだったぜ?」
「……彼女は、何か言っていたかい?」
「ううん。特には言ってない。だけど」
トーヤはその時を思い出すように、そっと瞳を閉じる。
「その子の隣に、優しそうなおばあちゃんの霊がいて、ありがとうって言ってた」
トーヤの言葉に、エドワードは絶句した。
──遥は、独りではないのだ。
「トーヤ、すまないが留守を頼む」
「それはいいけど…何処に行くんだ?」
ドアノブに手を掛けたところで、エドワードは振り向き様に答えた。
「遥の所だよ」
事務所を出て、エドワードはとりあえず遥の祖母宅に向かうことにした。
それは祖母宅以外に遥が行きそうな場所は知らないためだが、何故だか其処にいるような気がした。
祖母宅に到着し、エドワードは扉をノックする。
「グラッドストーン探偵事務所の者ですが、どなたかいらっしゃいませんか?」
少し間があって、扉が開いた。
出て来たのは──
「オマエ、急がねぇと間に合わねぇぞ」
遥ではなく、彼女の叔父だった。
「それは、どういう意味ですか?」
エドワードの問いに、叔父は親指で自分の背後を指し示した。
「今、遥が裏口から逃げた」
「なっ!? ……彼女が行きそうな場所は判りますか?」
「あぁ。多分アイツが行くのは──」
叔父の言葉に、エドワードは自分の耳を疑った。
「本当に其処なんですか?」
「オマエ、さっきから質問ばっかりだな……。確かに、ここ一ヶ月を考えると有り得ないかもしれない。だけど、オマエの一言に救われたらしいぜ」
「僕の一言…?」
「さ、考える前に行動だ。早く遥を捕まえてこい」
くるりと方向転換され、ポンッと背中を押される。
エドワードは遥の叔父に礼を言ってから駆け出した。
僕は、キミに伝えたいことがあるんだ。
キミに嘘を吐いてしまったこと。
キミの隣には、いつもおばあさんがいたこと。
そして──
僕は遥が好きだということ。
「……遥」
遥の叔父が教えた場所──おばあさんが眠っている墓地に、遥はいた。
祖母の墓の前に立っている遥の肩は、僅かながらも震えていた。
エドワードはそっと声を掛ける。
「遥……僕はキミに言いたいことがあるんだ」
「………………私は、誰にでも良いから言ってほしかった」
遥はポツリと話し始める。
エドワードは遥の話を聞くことにした。
「お祖母ちゃんは生きてるんだよって、誰かに言ってほしかった。頭では理解してる。お祖母ちゃんが此処に埋まっていくのを見たから……。でも、お祖母ちゃんがいないなんて認めたくなかったっ」
ガクリと膝を曲げ、遥は泣き崩れた。
エドワードは慌てて遥の肩に手を置く。
「遥……」
「だからッ、エドワードさんが言ってくれた時ッ、凄く嬉しかったのッ」
エドワードが吐いた嘘は、遥を救っていた。
少なくとも、あの嘘で傷ついたわけではないようだった。
「お祖母ちゃんッ……やっぱりお祖母ちゃんがいないとツラいよッ」
「遥、そのことなんだが」
エドワードは遥の涙をハンカチで拭い、彼女の隣を指差した。
「遥のお祖母さんは、ずっと遥の隣にいるんだよ」
「へ……?」
「僕の助手に、霊の類を視ることが出来る有能な助手がいてね、遥の隣におばあさんがいるのを視たらしいんだ」
「お祖母ちゃんが、私の隣に……?」
「あぁ。そして、ありがとうって言ってるそうだ」
遥の涙は、みるみるうちに止まっていった。
エドワードは微笑し、遥の頭を撫でた。
「おばあさんは、遥に感謝しているんだよ」
「お祖母ちゃんッ……。エドワードさん、本当にありがとうございます。私、助けてもらってばっかりですね」
遥は立ち上がり、エドワードが指差した場所に向き直る。
そして、今までにない笑顔で告げた。
「お祖母ちゃん、私これからは誰にも迷惑を掛けないように頑張るよ。だから、安心してね!」
刹那、ピカッと何かが光り──
ありがとう、遥──
ニコリと笑っているおばあさんが、そう言って消えた。
遥は、また涙を流してしまうが、エドワードによって拭われた。
二人は暫くの間、其処にいた。
エドワードと遥は、帰路についた。
遥は最近祖母宅に住んでいるらしく、エドワードは祖母宅まで送ることにした。
「エドワードさん、本当にありがとうございました。私、凄く救われたんですよ」
遥は微笑みながら言う。
エドワードは自分の頬が熱を持つのを感じた。
あぁ。やはり僕は、遥が──
「エドワードさん、どうしたんですか? 何だか顔が赤いですけど…」
「……遥、僕の話を聞いてくれるかい?」
「? 分かりました」
二人は立ち止まり、向き合う。
エドワードは高鳴る心音を感じながら、ゆっくりと告げた。
「僕は──遥が好きだ」
「………………え?」
きょとんとする遥に、エドワードは片膝を付き、彼女に左手を差し出した。
「これから、僕は貴女の隣にいたい。貴女の孤独を無くしたい。僕で良ければ、貴女の隣に──」
その時、遥がそっと右手をエドワードの左手に重ねた。
エドワードは瞳を丸くし、遥を見る。
遥の小さな顔は、少し遠くからでも判るぐらい赤かった。
「わ、私は、エドワードさんに釣り合わないかもしれません」
「そんなこと…」
「でもっ、エドワードさんのこと、す、好きだから、この手を取ってしまいました!」
真っ赤な顔でそんなことを言う遥が愛しくて、
「遥……」
「はい……きゃっ」
遥をぎゅっと抱き締めた。いきなりのことに、遥は慌てふためく。
「エ、エドワードさん!?」
「いきなりごめん。だけど、遥が可愛くて……」
「恥ずかしいこと言わないでくださいよ!」
二人は真っ赤な顔を見合わせ、そして同時に吹き出した。
「エドワードさん、顔が真っ赤です!」
「遥こそ、真っ赤だよ」
「エドワードさんの方が真っ赤ですよ」
「……遥」
「何ですか?」
「エドワードさんじゃなくてエドワードにしよう」
エドワードの言葉に、遥は最初こそ首を傾げていたが、意味が判ると微笑して──
「はい、エドワード」
遥の答えに、エドワードはもう一度遥を抱き締めた──
*fin*
はっきり言って、何がやりたかったのか……自分でも解りません(オイ)とりあえず、甘く……なったと思われます(滝汗)
2008.08.06 掲載
2010.04.06 修正