キミに出逢ったあの日から、
何か不思議な物を感じていた──。




〜キミの傍で 前編〜




いつも通りに過ごしていた、ある日の午後。
エドワードは、ぼんやり考え込んでいた。
自分でも解らないぐらい、何かを感じている。
しかし、その正体が解らないため、彼は焦っていた。

(もしかしたら、また何か事件でも起こるのだろうか?)

そうだとしたら、こうしてはいられない。
エドワードはドアノブに手を掛けた。
その時──


「こんにちは探偵さん。お仕事を頼んでも良いですか?」


目の前に現れたのは、美少女──ではなく、何処にでもいそうな平凡な少女だった。
髪はエドワードの守り役と同じココア色で、長さは肩より少し長め。
瞳の色はエドワードと同じ青空のような青色。
自分と同じ色の瞳であるはずなのに、エドワードはそれに吸い込まれるような感じを覚えた。
また、彼女の肌は、透き通る様に白い。
そして、その肌を覆っている服は、漆黒のワンピースだった。
夏であるこの時季に、漆黒のワンピースは可笑しな感じがするだろう。
しかし、彼女はそれさえも感じさせないぐらい、本当に平凡な少女だった。

一通り観察を終え、エドワードは彼女に返事をした。

「こんにちは。仕事内容に関して、教えてほしいので、是非中にお入りください」
「はい。ではお邪魔します」

エドワードは少女を中へと招き入れた。
少女が椅子に腰掛けた事を確認すると、エドワードも椅子に腰掛けた。
すると、少女はエドワードに質問をした。

「あの……お一人なのですか? 助手の方がいると聞いていたのですが……」
「只今二人は外出中で……僕だけじゃ不満ですか?」

エドワードが微笑すると、少女は首をブンブンと振り被った。

「とんでもないです! とにかく、話を聞いて頂ければ、それで良いんです」

少女は一度俯くと、次はエドワードの顔をしっかりと見ながら話し始めた。

「私の名前は遥・梶原といいます。あ、遥と呼んで頂いて構いません。それで、依頼の件なんですが……」

少女──遥の話を要約するとこうだった。
遥には、ロンドラの外れに住んでいる祖母がいる。
しかし、最近その祖母と連絡が取れないというのだ。
いつも週に一回は手紙をくれるはずなのに、今月に入って一度も来ていないらしい。

「今月も、明日で終わりです。なのに、お祖母ちゃんが一回も手紙をくれないなんて変なんです」
「それで、僕におばあさんの様子を調べてほしい……という訳かい?」
「はい」

話し終わる頃には、遥の目尻に涙が溜まっていた。
その様子からも、遥が祖母の事を心配している事が判る。
エドワードは、依頼を受ける事にした。

「分かりました。では、明日行きましょう。住所を教えていただけませんか」
「あ、ありがとうございますっ。でも……」

遥は目尻に溜まった涙を、エドワードに渡されたハンカチで拭う。
そして、申し訳なさそうに言った。

「お祖母ちゃんの家、凄く入り込んでいて分かり難いんです」

遥の言葉に、エドワードは眉を顰めた。




次の日。
エドワードは事務所前で待ち合わせをしていた。
勿論、相手は──

「エドワードさん、お待たせしましたっ」
「遥、大丈夫かい? かなり息が切れているようだが……」
「大丈夫です! さぁ、行きましょう」


遥が笑うと、エドワードは胸が高鳴るのを感じた。
一体、何故だろう?
実は昨日も、ずっと彼女の涙を思い出さずにはいられなかった。
──僕は、どうしたんだ?

「エドワードさん、どうしました?」
「……すまない。少し考え事をしていたんだ」
「あ、ごめんなさい。私、邪魔をしてしまったみたいですねっ」

遥の表情が曇る。
エドワードは慌てて否定した。

「大丈夫、邪魔なんてしていない。逆に感謝したいくらいさ!」
「本当ですか? 良かった……」

遥のホッとした様子を見て、エドワードはまた胸の高鳴りを感じた。

暫く歩くと、どうやら目的地に着いたらしく、遥は立ち止まった。

「エドワードさん、此処がお祖母ちゃんの家です。あの、私、とある事情があって、此処から先は入れないんです。ですから、向かいに在るお店にいますね」
「分かった。調べ終わったら呼びに来るよ。それにしても、結構近場なんだな……」

(僕が来る意味はあるのだろうか)

内心、そう思いつつも、エドワードは扉をノックした。

「すみません。梶原さんはいらっしゃいますか」

暫くすると、一人の男性が扉の向こうから現れた。

「……アンタ、誰だ?」
「グラッドストーン探偵事務所の者です」
「探偵事務所……? もしかして、遥とかいう女に頼まれたんじゃないんだろうな?」
「残念ながら、依頼人に関しては秘匿義務がありますので」

そう言い返すと、男は頭を掻き、暫し考える仕草をした。
エドワードは男の返答を待つ。
やがて、男は溜め息を吐き、エドワードを屋内へと招き入れた。

「それで、探偵が何の用だ」
「実は、此処に梶原さんというおばあさんがいると聞いたのですが……貴方はどういったご関係で?」

エドワードの質問に、男は眉を顰めた。

「確かに此処には一人の婆さんが住んでいた。だが、その婆さんは先月逝っちまったんだ」
「え!? では、貴方は一体……」
「俺はその婆さんの次男だ。婆さんがいなくなってから、俺はずっと此処に住んでる。だが」

男は自分のティーカップに手を伸ばし、中に入っている紅茶を啜った。

「婆さん──お袋が死んでから、週に一回は探偵やら何やらが来る。梶原とかっていう婆さんがいないかってな」

まさに自分もその状況にあるエドワードは、驚きを隠せなかった。
明らかに不自然であるそれらの訪問者達は、一体、どういう経過で此処に来たのだろうか?

「この前来た野郎を問い質したら、遥っていう女に頼まれたっていうじゃねぇか。俺はその時目の前が真っ白になりそうだったぜ」
「それは、どうしてですか?」
「遥っていうのはな、俺の兄貴──婆さんの長男の娘の名前だ。所謂婆さんの孫だな。孫なんだから、婆さんの死はとっくに知ってるはずだろ? だけど、遥は何度も此処に誰かを連れてきては確かめさせるんだ。婆さんがいるかって」

男の言葉を聞き、エドワードは胸が痛くなるのを感じた。
彼女は──遥は、大好きだった祖母の死を、認めたくなかったのだ。
男は、エドワードにこう告げた。

「なぁ。もうそろそろ、終わりにしてやりたいんだ。遥、きっと辛いだろうからよ……」

男は紅茶を全て飲み干すと、エドワードを見る。
彼の瞳は、何かを懇願していた。

「アイツを……遥を、解放してやってくれないか」

エドワードは、ゆっくりと頷いた。




「遥、調査は終わったよ」

向かいにある店に行くと、遥は俯いていた。
しかし、エドワードの声を聞くなり、顔を上げる。

「本当ですか!? あの……お祖母ちゃん、どうでした?」

遥の問いに、エドワードは遥の祖母の次男である男と考えた事を話した。

「おばあさんは、遠い国に旅行に行っているそうなんだ」
「旅行?」
「そこは手紙さえ届ける事が出来ない場所でね、今どうしようも出来ないらしい」
「……お祖母ちゃん、旅行に行ってるんですか。良かった。一体、どうしたんだろうって心配したんです」

遥の顔に、喜びの表情が浮かんだ。
しかし、相反してエドワードの顔は曇る。
──こんな嘘を言って、彼女は本当に助かるのだろうか?

「エドワードさん、ありがとうございました。報酬は、後ほど払いに来ますね」

遥は、そう言うなりエドワードの前から走り去った。
エドワードは遥を追ったが、既に彼女の姿は見えなかった──。




to be continued...


2008.06.22 掲載
2010.04.06 修正

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