約束
なんだか眠れなくて談話室におりてみると先客がいた。
リアだ。
こんな夜遅くに何をしているのだろうと思い彼女に近寄った。
微かに寝息が聞こえ、寝ているのだと分かった。
「何だ、寝ているのか」
リアは部屋着の格好のままソファの上で寝ていた。
ドラコは一旦自室に戻り毛布を持って談話室まで戻ってきた。
リアに毛布をかけると重みを感じたのか目を覚ました。
「………ドラコ…?」
寝ぼけ眼で僕を見、名前を呼んだが確実に僕だと分かっているわけでもないようだ。
「すまない、起こすつもりはなかったんだが」
とりあえずリアの隣に座った。
リアは頭が冴えてきたのか、今何時?と僕に聞いてきた。
「夜中の2時だ」
「そっか」
彼女は納得したように頷き、ふあぁと大きなあくびを一つした。
「ドラコは何でここに?」
「僕は眠れないからおりてきた」
「あのね、夢、見てたの」
「どんなのだ」
「幸せな夢。ドラコ、あなたにね、」
幸せな夢、と出てきたあとに僕の名前が出てきて、一気に幸せな気分になったが、その次の言葉を聞いて僕の気分はどん底に落ちることになる。
「殺される夢」
がくーっとドラコは大げさにリアクションを取り、素直に疑問に思っていることを口に出した。
「どこが幸せな夢なんだ」
「えー、だってあたし、死ぬなら愛する人に殺されたい」
若干夢見心地で言う彼女は、まだ夢の中にでもいるつもりなのだろうか。
本気で言っているのだろうか。
リアの真意を掴むべく、ドラコはリアの瞳をじっと見つめた。
が、リアの瞳を見ても不思議そうな顔をした自分が見えただけだった。
「何故そう思う?」
「だって、素敵。あ、でもね、銃とかナイフで殺されるのはイヤ。魔法で殺されるのもイヤ。その手で直接殺して欲しい」
リアは、んー、と少し悩んだ後、「首を絞め殺される、とか」と例をあげた。
「…窒息死は一番苦しい死に方らしいぞ」
「そうなの?でも首を絞め殺される死に方が、理想的かも」
ふふっと笑う彼女からは、話している内容が死についてだなんて微塵も感じられない。
「あ、心中でもいいかも!で、殺し合うの」
「…愛する者と殺しあうって、辛いと僕は思うぞ」
「ううん、首を絞めあうの。で、相手が死んじゃったら後に残ったほうは自分を自分で殺すの」
淡々と話す彼女の目を覗き込んだ。
冗談を言っている風ではなかった。
リアは突然僕の胸に顔をうずめ、言った。
「ね、ドラコ、お願いがあるの」
「何だ?」
「あたしが病気にかかったり、死にそうになったら、ドラコの手で殺して」
返事は、しなかった。
出来なかった。
しばらくの沈黙の後、言葉を途切れ途切れにドラコは言った。
「僕は、お前が死んだ時のことは考えたくないが…、でも、お前が望むなら」
殺してやる。
そうリアの耳元で囁くと、なんだかやりきれなくなって僕はリアの肩に顔を埋めた。
「リア、じゃあ僕が死にそうなときも、君の手で殺してくれ」
「分かった」
そして二人はどちらともなく唇を重ねた。
満月の日の夜の約束。
それが実現される事になるのかどうか。
それはまた別のお話。