卿のとある日の発言






それはとあるカップルがとある学校のとある寮の談話室で話している時のこと。


「え、ちょ、ヴォル、いきなり何言い出してんの君頭大丈夫!?」


ヴォル、と呼ばれたその青年の本名は、トム・マールヴォロ・リドル。ヴォルデモートという愛称である。


「リア、さっき言った通りだ。僕は新世界の神になる!」


リア、と呼ばれたその女性に本名は、ない。愛称は、リア。


「え、ヴォル頭のネジ飛んじゃった?」

「心配そうに頭をなでるなのーぷろぶれむだ!」

「え、ちょ、片言の英語を使う時点でもう大丈夫!?ってなるんだけど!ねぇ本当に頭大丈夫!?」


心配そうにトムの顔を覗き込むリア。


「いいか、僕は頭がいい。勿論魔法を使うのも上手だ」

「うっわーさりげに自慢しやがったよコイツ」


余談であるが、現在ホグワーツはクリスマス休暇に入っており、スリザリン寮には彼ら以外人はいないのである。


「それで、僕は入学する前からずっと考えていたんだが、世界を乗っ取ってマグルを滅ぼそうかと思う」

「うわー入学する前からって、えーと、11歳くらいに入学だからー?うっわ!どんだけ小さい頃から黒い心持ってるの!?11歳になる前からマグルを滅ぼそうとか考えちゃうわけ!?うわーうわーうわー」


うわーうわーとなおも騒ぐリアに鬱陶しそうな目線を送るトム。


「うるさい大体僕はお前に何度もこの話をしただろう」

「知ってるけどさー。マグルを滅ぼそうとかは賛成だけどさー、賛成だけどさー、だけどさー、え、新世界の神になるって表現やめてーどっかの漫画の世界の月って書いてライトと読む人間の台詞とぴったんこなんだけどー」

「何だそれは」

「えー、内緒」


またまた余談ではあるが、リアに本名がないのは名づけられる前に親に捨てられたからである。

さらに余談ではあるが、リアというのはトムが名づけたものである。


「ねーねーヴォルー、ヒマダヨー」


心底暇そうにトムのローブを引っ張るリア。


「よしじゃあ暇な君に僕の人生計画を語ってやろう」

「うわーいらねーよそんなお先真っ暗な人生計画ー」

「まず僕はホグワーツを卒業したらホークラクスに魂を入れることに専念をする」

「あーはいはいあの魂を分けるとかゆーやつねー」


こくこくと頷くリア。


「そしてトム・リドルではなくヴォルデモート卿として世界を乗っ取る」

「わーおめでとー」


棒読みで、且つやる気のなさそうな拍手を送るリア。


「その棒読みでの拍手をやめてくれないかな」

「ねーとむー、とむとむー」

「…君僕がその名前で呼ばれるのが嫌な事くらい知っているだろう」

「あーごめーんつい癖でー」


余談であるが、他人がいる前ではリアは彼のことをトムと呼ぶのである。


「で、何だ?」

「世界乗っ取った後はどうすんのー?」


いつもの調子で飄々と問うリア。


「………?」

「ほらっ、マグルも全部消してー、んで理想の世界作ってー、魔法使いだけの世界を作ったあとだよー」

「…………それは…考えた事がなかったな…」


顎に手を当て考え込むトム。


「ほらー、人間の欲ってさー、絶対に尽きる事ないじゃんっ?だからさ、理想の世界を作った後さー、人間ってどうなっちゃうんだろーって思ってー!」

「確かに…そうだな」

「ねっ、その後にできる望みって、何だと思うっ?」


無邪気に、トムに問うリア。


「僕は……」

「?」

「まぁ、乗っ取った後に考えるさ」

「じゃーあたしが望みを当ててあげる!」


ビシッとトムの目の前に人差し指をつきたてるリア。


「何だ?」

「ヴォルの願いはー、あたしに殺されることだよッ」

「………は?」


余りにも意外すぎる答えに目を丸くするトム。


「あ、もしくは世界滅亡の後死ぬことかなー」


首をかしげて可愛く言ってみるリア。


「うーん。合ってる?」

「いや…どうだろう」

「結構自信あったんだけどなー」

「そのときになってみないと分からないさ」

「そうかなー。あ、殺して欲しくなったらいつでもあたしに分霊箱を差し出してねっ」


あはー、とあくまで無邪気に笑うリア。


「そうだな。そうするよ」

「あーぁー、あたしの可愛い可愛いヴォルデモート卿はホグワーツを卒業したらあたしとは違う道に行ってしまうのですね」


指を組み、天に祈るポーズで大げさに嘆くリア。


「リアは僕と一緒に来ないのか!?」


驚いた様子で言うトム。


「興味ないもん」


その一言にがっくりと項垂れるトム。


「あ、でもー、殺して欲しくなったらいつでも呼んでいいよ。頑張って探してね」


あははーと笑うリア。


「僕は…僕にとっては…君が必要だ」


慎重に言葉を選ぶトム。


「僕の理想の世界は、マグルが消えて、魔法使いだけの世界になって、そして僕の隣に君がいる世界なんだ」

「ヴォルがね、天下を取ったら、あたしを迎えに来て。それまで、死なないで待ってるから」


スッと小指をトムに突き出すリア。


「?」

「日本ではね、小指を絡め合って約束をするの」


おずおずと指を絡めるトム。


「ゆーびきーりげーんまーんうっそつーいたーらはーりせーんぼーんのーますっ!ゆーびきった!」


満足げに笑うリア。


「…なんだか今日はリアにペースを乱されているようで癪に障るな」

「ひどっ!何その言い方!」

「そういえば君はこんなことについて語っているよりもさっさと課題を仕上げたほうがいいんじゃないか?」


チラリと机の上を一瞥するトム。

余談であるが、クリスマス休暇が終わるまであと3日である。


「忘れてたあああぁあぁあっ!!」


クリスマス休暇中、とある学校のとある寮の談話室ではとある課題が終わらないと嘆く女子生徒の叫び声が反響したそうである。




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