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 友人から得た情報で河原へと赴くと、青年が水面(みなも)を眺めていたところだった。どうやら情報は正しかったようで、昔よりも凛とした横顔に胸がきゅぅっと締めつけられる。離れている間にもかっこうよさがまた増したようだ。私の知らない姿に寂しさを覚えたが、それを口にすることはない。だって私は重荷になりたくないのだから。

 だから私は――風待(ふうまつ)楓(かえで)はどこかおどけた感じで声をかけた。「こんなところにいたんだ」と走り寄りながら。

「――帰ってきていたなら帰ってきていたって、教えなさいよ」
「こっちにもいろいろあんだよ。つか、アイツ喋ったのか……」

 こちらを振り返るその顔は不満そうだが、口止めが巧くいくと思ったら大間違いだからね。女の友情は儚いものなんですよ。お菓子で簡単に釣られましたし。それにこっちは帰ってきていたなんて知らなかったのだから、少々棘があってもしかたがないだろう。

「まあまあ、せっかくの再会なんだからさ、そう不満な顔をしないでよ。――お帰り、夏慈(なつじ)」
「ああ、ただいま。といっても、三日後には帰るけどな」

 しれっと言うが、またすぐにいなくなるのか。容赦なく夏休みでしかないという現実を突きつけてくる。

 夏慈こと笹松(ささまつ)夏慈とは幼なじみであった。それもやっぱりお隣さん。私たちはよくこの川に来ては水切りをして遊んでいた。綺麗な水だからこそ、きっと人を呼ぶんだろう。水切り以外にもバーベキューや水遊びでお世話になっていたのだから。

 まあ、それも小学生までだけれど。

 中学になれば勉強や部活、習い事でお互いに忙しくなり、なかなか遊ぶ時間がなかった。いくら登下校は一緒だといっても、クラスは違うから接点が減る。高校だってそう。大学も違う。

 ――彼は学びたい学部があるからと、地元ではない大学に入学した。そうして二回生となった今年はきちんと帰省したのである。ちなみに、昨年は忙しいと断ってきたのだが。

「背、伸びたね」
「俺も驚いた。まだ成長期が終わってなかったわ」

 いやいや驚いたと続ける彼は、「なあ」と一時(いっとき)真剣な顔つきになる。

「――せっかくだからさ、水切り勝負しようぜ」
「アンタ私に勝てたことがないけどいいの?」
「今日は俺が勝つから」

 自信満々に放たれた言葉に「解らないじゃない」と返して石を探し始める。昔から思っていたことだが、なにやらこの河原にはけっこうな数の平たい石があるのだ。年月がそうさせるとは解っていても、自然の不思議さは不思議なままである。

 なかなかよさげな石を見つけた私は、夏慈のところへと戻った。勝負は昔と変わらずに二回挑戦なので、二つの石がパーカーのポケットに鎮座している。一回では面白味に欠けるので、いつからか二回挑戦になっていたわけだが、二回のうち長く水面を走った方を記録とするのはこのときも変わらない。

「先にどうぞ」

 夏慈のその言葉に「泣いても知らないから」と石を投げる。たんたんたんたんと等間隔に四回跳ねた石は、五回に差しかかる前に水没した。「やるねー」と軽い口笛を吹く男に対し、「まあね」と得意気に答えてやる。と同時に、いくら離れていても、やってみればやれるものだと感動を得た。躯が覚えているとはこういうことなのだろう。

 場所を譲ると、「じゃあ俺な」と構えた。ふわりと靡く髪から視線を動かして石を追うと、たたたんたんたんと五回跳ね、六回と続いたあとにポチャンと川の底に沈んでいく。

「すご……!」

 私には到達できない域にあることを思い知るが、素直にすごいとも思った。夏慈はすごい。

「次は私」

 だが、残り一回の挑戦も同じような結果で終わり、また彼の番となる。石を飛ばす腕から少しずつ軌跡を追った。たんたんたたたんたんたたん。

 おそらく最高記録であろう八回。小さな音を立てて消える石を眺めたあと、「負けたみたい……」と小さく漏らす。すごさに声が震えたまま「完敗ですな」と続けると、「そりゃあ」とにんまりと笑う。「感覚を取り戻すために練習していたからな」と。

 まさか――と思ったときには遅く、夏慈の整った顔が目の前にあった。

「そう、考えてるとおりだよ。これを逃すまいと三日間必死に練習してたんだわ。次にいつ帰って来られるかは解らないし。それに、勝負に勝ったら言おうと思っていたことがあるからな。ずっと昔から」
「なに?」
「――好きだ。付き合ってください。結婚しよう」
「なんだか大盤振る舞いな気がするけど、私でいいわけ?」
「ほかに誰がいるよ」
「ほら、私が知らないだけで、向こうにいるとかさ」
「いるわけないだろ。俺が楓がいいの。ずっと楓だけだから」
「――うん。私もそうだった」

 するりと出た言葉にはっとして口を塞ぐが、それこそもう遅い。

「卒業したら戻ってくるから、一緒に暮らそう」
「にやにやしながら言わないでくれる!?」

 みるみるうちに顔を熱くさせる私に対し、そういうところがかわいいと言った夏慈だったが、私としてはそういうところが憎めないのだと思っている。

 どうしたって惚れた弱味で、どうしたって勝てない。

 夏の厳しい陽射しのなか、私たちは収まるところに収まった。何十年越しにようやく。




(おわり)

◆ 執筆時期 ◆
執筆開始 : 2020.09.22(火) - 執筆終了 : 2020.09.23(水)


この内容で400字詰め原稿用紙6枚と少しですね。(約7枚)




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