跡部はもう500年も昔からずうっと15歳らしい。


「いやいや」
「なんだ」
「嘘でしょ」
「どうして言い切れる」
「いや、だって入学したとき年相応に小さかったし」
「はん、俺様ほどの魔力を持ってすればあれくらい」


容易いんだよお嬢さん。そう言って胸に手を当て体を少し倒してお辞儀をする跡部の頭が可笑しいのか、わたしが可笑しいのか。それともこれは夢なのか。


ああでももしかしたら。
選択肢はあと一つある。


「はあ、俺様も人間に戻りたいぜ」
「む、昔は人間だったの…」
「ああ、500年前はな…ちなみに人間だったころ、俺はブルガリア人だった」
「うわ、ブルガリアとかなんか真実っぽい感じ出てきた」
「あの凍てつくような寒い日、そいつは突然やってきた…」
「ま、まさか…」


ゴクリ。わたしの喉が好奇心と呼応して音を出す。跡部が言うにはそいつとは齢1500歳のドラキュラであり、その妖怪は当時まだ人間であった跡部に囁いたらしい。跡部はどんどんわたしに距離を詰めてくる。背後のフェンスがカシャ…と鳴いた。


「永遠の命が欲しくはないか?」


ああ、跡部の唇がやけに赤い。それが弧を描けば長いキバのようなモノがあらわれる。耳も心なしかとんがっているような、気が、する。


「口づけが契約だ。どうするお嬢さん」


永遠の命なんて正直欲しくない。だけどわたしは好きな男が不老不死なら、それに自分も合わせてみたいと思った。だって、わたしだけ先に年をとっておばさんになっておばあちゃんになっても、跡部は今みたいにツルツルのピカピカだったらなんか嫌だ。悲しい。それってすごく切ない気がする。


「契っていいよ、跡部」
「は、」


素直にキスして下さいって言ってみろよ。言葉通り素直にそれを言葉にしようとした瞬間、少し開いたわたしの唇を跡部の赤いそれが食らいつく。わたしは跡部がドラキュラでも妖怪でも、この話が実は嘘でも真実でも、本当にこの後自分もドラキュラとして生きていくことになったとしたって、こういうキスを一度してもらえたというだけで、すべてオールオーケーだな、と思う。


「…嘘だと思うか」
「どっちでもいいと思った」
「は、」


跡部は笑う。
そしてこのことは二人だけの秘密だと言った。
結局、可笑しいのはどちらなのだろう。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -