人の弱い部分に惹かれてしまうのだ


「あ?」
「跡部くんにはある?」
「なにが」
「弱い部分」
「ねえよ」
「やっぱり」
「なんなんだテメーは」
「だってわたしってあなたに対して、全然ときめいたりしないもの」


なんでそんなことただのクラスメイトの女に告白されなきゃ、というか俺にそれを告げてこいつは一体何がしたいんだ?そんな顔をして跡部はわたしを軽視している。なんていうかそれは、えんがちょって感じの顔であるのだが。そんなギャグ的な表情をしても尚、顔の造りが美しいままの彼にわたしは心底ウンザリしてしまう。あーあ。せめてその苦渋の顔がくしゃっと歪み、ブルドックみたいにブサ可愛ければ可愛げもあるものの。本当にこの男はわたしの好みに該当しない。


「なあなあ跡部くんよ」
「その口調はなんなんだ?」
「人は欠点があるからこそ美しい。不完全要素があるからこそヒトは美しく輝くのだよ!」
「何が言いてえんだ」
「なんでも出来てしまう容姿端麗文武両道男なんてつまらないという話だよ、あなたのことですよあなたの!」
「(日本に帰国して三年足らずの俺様に、このテの女の対処は難しすぎる)」
「なに黙ってんの?そんなダサいポーズで瞳孔開ききってもハンサムはハンサムだよチキショーめ…」
「…で?」
「でってなに?!」
「お、俺にどうしてほしいんだ、おまえは」
「どうもしてほしくないよ!どうもしてほしかないけど欠点があるならそれが何かを教えてほしい」
「なんで」
「きみのことちょっとでも好きになるきっかけになればなあ、と。だってほら、これから3か月隣の席同士なわけだし。ああいい忘れてた、これからよろしく跡部くん」
「…まあ教えねえけど」
「なんでよ!」
「男はなあ、簡単に人に欠点なんて教えないもんだ。外には常に7人の敵がいると思っていたほうが強く逞しくなるからな」
「敵ってなに…?欠点を教えないことと敵の存在はどう関連しているの…?」
「いいかよく聞けこの馬鹿女、お前がなぜその二つの関連性を見いだせぬのか、それはテメーが物事を断片的にしか捉えられねえところにある」


そう言って跡部くんはずい、と肘をわたしの机の上に運んで。体をわたしのほうへ傾ける。これだけの近距離でもハンサムに酔えないわたしは、きっと骨の髄までの内面至上主義者なのだろう。


「関連とか、ますます分からないんですけど」
「俺様にだって出来ないことはあるし、人並みに悲しんだり悔しんだりして生きてるんだよこの阿呆」
「…え?ほ、ほんとに?」
「でもなあ、そんな俺を誰が望むか?そんな学園の王を誰が望む」


跡部くんの目つきが深くなる。不思議なくらい鮮明なその青は、このくだらないやりとりに、いつの間にか本気になってしまった証しだろうか。


「…みんなだって別に、そういう跡部くんを強いているわけじゃないよ」
「は!強いもしねえだろうよ。だって跡部景吾は、なんでも出来ちまうんだろう?」
「……」
「そいつはおまえの言うとおり、容姿端麗文武両道、おまけに氷の帝王で、その心もさながら冷たく鋭く、何にも揺るがない強い精神を持って生まれてきたんだろうよ。だから弱音なんて誰にも吐かない」
「…跡部くん!」


吐けねえんだよ。そう続けられそうな気がしてわたしは急いで、彼の名を呼びその予想を遮った。


「…あ?なんだよ黙って聞いてろよ」
「ちょ、ちょっとタイム。タイムアウト」
「タイムアウト?帰宅部がなに言ってやがるんだ…」


だって、まずい。それは絶対にまずい。この胸の高鳴りは、絶対に、まずい。だって弱音なんて誰にも吐かないとか言っといてこの人、わたしに弱音吐きまくってるし。それに気づいてなさそうなところも可愛すぎる。ああ、どうしよう。どうしようどうしようどうしよう!わたしは自分の心がグラついているのが、目に見えるように分かってしまう。ああでも、もしそうならば。


この落差が本物ならば、きっとわたしは狂ってしまう。


「あん?」
「あ、いやその」
「アーン?さっきの威勢はどうしたんだよ」
「だって…!」
「なに慌ててんだ」
「あ、わててない!」
「……」
「……」
「(どうしようなんとかしてこの場を埋めないと)」
「(さっきまで人を舐め切った目で見下ろしてた女に、一体どんな心境の変化が…)」
「あ!」
「な、なんだ」
「お、怒ってるの?」
「あ…?」
「や、だって急に真面目な顔して、ペラペラ心情吐露始めるなんて!わたし驚いちゃったなあ、なんて」
「…ああ」
「変なこと聞いて悪かったよ。それよりさ!」
「…そうだな、悪かった」
「え?」


物事っつーか自分のことを断片的、つーか完璧という一文字で誰しもに片づけられるのが、俺は本当は悲しかったんだなあとおまえとの問答で思い知ったぜ。はは、笑っちまうな。俺もまだまだだな。


わたしの強引な話題変更をまるで聞いていない跡部くんは、一人でペラペラと語りそして悟りを開いたと思ったら、なんだか晴れやかな顔で一人高笑いを始めた。そんな初めて見る跡部くんばかりを見て思うこと。それはやはり、万人、否、おそらくほとんどの女子が大好きなあの落差であった。


「…これで確定だ」
「あ?」


本当のわたしは、人の弱い部分に惹かれているわけではなく、内面至上主義なんていう大それた思想の持ち主でもない。本当のわたしとは、だたのギャップ好きの愚かな女子中学生、で、あるからにして。


「…つーか橘よ、人の弱みが好きって性格悪すぎなんじゃねーの」


しかしどうして“あの”跡部景吾の外面と内面のギャップを知ってしまった今、それは最強コンボすぎて、最早わたしは恋に狂って狂いまくって変な歌でも作ってしまうそうだ。やっと去年、リアル中二を卒業できたというのにまったく!


「…ああ!」
「なんだよ急に!おまえほんとなんなんだよ…」
「そもそも跡部さまへの恋心なんて、中二の権化みたいなモンじゃん…」
「あ?中二ってなんだよ?」
「…はあ」
「アーン?」
「そっちの単語に着目するその天然なところもたまらないよ跡部くん…」
「あ…?」






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