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あっという間に世界は薔薇色



ふわっふわで、かわいくて。近づいたらお菓子の匂いがしそうな、甘い甘ーい可愛い女の子。やつが恋してると聞いたのは、とびっきりのスイーツのような、隣のクラスのあの子だった。残念ながら私とはまったく正反対な、可愛い可愛いあのこだった。かみさまわたし、失恋、決定しました。



「しらいしー…私しんだ」
「朝っぱらから何言うてんねん」


バタン、と大げさに机につっぷしてみせた私を、隣の席の白石くんは呆れて笑った。イケメンは朝から爽やかだね、と毒づいてみたら何をふてくされてんのや、とぐっと間合いを詰めてくる。それでこそ友人。それでこそ白石。彼は私の良い相談役だった。


「ああ、またあいつ絡みか」
「お察しの通り…私どう見てもスイーツって柄じゃないでしょ」
「スイーツ?そらまた突飛なたとえやな」
「ふわふわでお菓子みたいな女の子じゃないでしょってことよ」
「せやなあ。まあどっちかっちゅーと、サラダって感じやな」
「サラダ……」
「せやけど、甘いモンばっかやったら胃ももたもた、疲れてまうやろ?」
「そりゃそうかもしれないけど…」
「諦めんのはまだ早いで名字。あいつも大概さっぱり志向や思うねん」
「おまえら、二人でコソコソなにしとんねん」


ひそ、と耳打ちしてみせた白石の後ろに影が差して、視線をあげてみたらそこには噂の張本人、謙也がいた。ぐっと眉間にしわを寄せて、不機嫌ですと顔に書いてある。


「おお!おはようさん、謙也」
「おお!やないわ!なんや朝っぱらから。なんや作戦会議でもしとんのか?こっそこそしくさって」
「なんや嫉妬してんのか?」
「ち、ちゃうわ!あほか!」


朝から漫才全開の謙也は、いつにも増してそわそわ落ち着きがない。


「ったくほんま、こっちの事情も知らんで…」
「え、こっちの事情って?」
「あ!せや名字、今度の日曜あいてへん?」


まったく話を聞いてない。ぱあ、と表情を明るくして食いつくように、なあなあ!と私に向き直った。ころころ変わる表情は見てて飽きないけど、まったく展開についていけません忍足さん。


「部活オフになってん!せやからどっか行こかー思うて」
「なんやー名字だけなん?俺は誘ってくれへんの?」
「アホか!お前デートや言うてたやんか」
「でも、いいの?貴重なオフのお供が私で」
「なんや、用事でも入っとるん?」
「そうじゃないけど!行くけど!他にもっと誘いたい人、いるんじゃないの?」
「は?名字と出かけたいから誘ってんやろ」


きょとん、と音がしそうなくらいに心底不思議そうな顔をして、でも次の瞬間にはまた表情はうきうきとしたそれに戻る。


「それよか、なあなあ、どこ行こか?」


映画もええな、ユニバ行っとくか?梅田出て買い物するんもええなあ、とさっきとは打って変わって上機嫌に、意気揚々と語る謙也を見ていたら、サラダもスイーツも、可愛い可愛いあの子のことも。なんだかもうすべてどうでもよくなってしまった。だって、謙也が休日にふたりで遊びに行くような女の子は、たぶんだけど今現在私だけだもん。それに、私と出掛けたいんだって言ってくれた。やばい、にやけてしまう。たとえそれがただの友達だとしても、謙也にとって特別なポジションにいるんだって、ちょっとくらい自惚れさせてもらったって罰はあたらないよね?この間白石くんのアドバイスを受けて買った、謙也の好きそうな、一張羅のワンピースを着ていこうと思って思わず頬が緩んでしまう私を見て、白石くんがやれやれと呆れたように笑ったのが視界の端っこに映っていた。





(恋の魔法にかかってしまったの)



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