小説 | ナノ




どうしても


※大学生







「ひかるー」
「なんすか」
「こっち、来て来て」
「…せやから俺いま課題、」
「えーっ一緒に寝ようよー」


暇なんだよー、人肌恋しいよー、ねー光ってばー、だだをこねるなまえさんの頭を思い切りひっぱたいてやろうと思ってぎりぎりのところでとどめた、とある日の夜。


先輩後輩という至って健全な関係を一年間経たうえで、付き合ってから知ったこと。なまえさんは俗に言う、あれやった。天然。ド天然。それもただの天然やあらへん。天然たらしや。俺の部屋に来るたびにベッドの上でごろごろと寝返りを打って布団に包まっては、光のいい匂いがするなあとへらへら笑う彼女に、幾度頭を抱えたか数えきれへん。まさか狙っとるんか、そうなんか。これが俗に言う小悪魔ってやつなんか。なまえさんはほんまに、男の深層心理ってもんを、欠片すら理解していない。性質が悪すぎる。


「…なまえさん」
「なに?」
「誘ってんすか」
「え、なにを?」


せやから、たまに、なまえさんはほんまは俺のこと男として見てへんのやないかって思う。俺ら、男と女やで。一応恋人同士なんやで?そんで俺はなまえさんのこと、めっちゃ好きなんやって、せやから触りたいとか抱きしめたいとかもっともっと知りたいとか思うのも自然なんやって、そこんとこちゃんとわかってへんのやないかって、心配になる。そんな風に思うのは、きっと俺だけやという事実も。数式が並べ立てられた小難しい理論なんかよりもずっとずっと困難な「課題」は、俺をいつでも悩ませ、そして苦しめる。責任なんか取れへんくせに。ほんまにこの人は。苛立った気持ちを抑えつつ、なまえさんの寝転ぶベッドに腰を下ろした。ギシ、スプリングが緩く軋む。ため息をひとつ。だからこんな辛いだけの思いは、今日で終わりにすると決めている。


「わーい光!やっと一緒に寝てくれる気になった?」
「なまえさん」
「ん?なに?」
「俺、あんた見てるとイライラするんすわ」


言ってしまった、ついに。ほんとのところはイライラっちゅうよりムラムラのほうが正しいかもしれへんな。目を大きく開いたなまえさんの言葉を紡がせないように、ぱくりと食むような形で唇に吸い付く。そのまま深く深く口付けて、まるで侵食するように支配していく。男はな、いつだって好きな女をこうやって全て支配してしまいたいって、思っとるもんや。あんたは知らんやろ、なあ、なまえさん。やから男は狼なんやて。分からんのやったら無理やりでも教えたる。今まで俺なりに大事にしてきたつもりだった。ずっと欲しくて仕方なかったから、告白して付き合うことになったあの日から、それはもう大切に大切にして、数少ないキスも触れるだけしかせえへんかった。だけど、もう。もうええやんな?だって俺はもっともっと、なまえさんが欲しくなってしまったんやから。


「ひか、」
「俺今まで、めっちゃ我慢してましたわ。俺が何度思ったか知らんやろ?」


なまえさんを、めちゃくちゃにしたいって。


困った瞳で泣きそうに俺を見つめる彼女に自然と笑みが浮かぶ。あ、その顔エロい、と俺は思う。支配欲はとまらない。自業自得やで、なまえさん。あんたが悪い。俺がどんだけあんたが好きで好きで、食らってしまいたくて仕方なかったかって、鈍くて天然なあんたにもちゃあんと分かるように教えたる、だから。




「俺なしじゃ生きていかれへんようにしたるわ」





(だからどうか、この手を拒まないで)



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