小説 | ナノ
カラカラ空想論
※学パロ
「…もしもし、沖田さん」
「なんでィ、名字さん」
「あんたこれは一体どういうご了見なの」
「なにが?」
「だから。なんでわたしの机の上にあんた宛のラブレターが置いてあるの」
日直終わって帰ろうとしたら、からっぽになった教室に沖田がいた。わたしの一個前の席に座って、ぷかりぷかりフーセンガムをふくらましては消していた。ヤツの大好物だ。つうか。こんな時間まで一体あんたはここで何をしているんだ?そんで、なんでわたしの机の上にまるで嫌がらせのように大量のラブレター「沖田くんへ」が置いてあんだ?ああ嫌がらせかコレ。そうだとしたら一体どんな種類の嫌がらせだよ。わたしの疑問を無視するようにして、沖田は大きく伸びをした。パチン、ガムが割れるおと。
「あー…女子が机間違えたんじゃね?」
「しらねーよ、つーか目の前にあるんだから明らかに自分宛てだって解るくせにどうしてそのままにしておくの」
「いーじゃねーか、どうせ捨てるんだし。お前が」
「捨てんなよ!つうかわたしが捨てるのかよ!なんで!?」
ヒトデナシ沖田、あんた最悪だな。そう吐き捨てると何が楽しいのか、ふふと笑った。ちょっと皆さん、こいつほんとひでエヤツだよ。反省の色がみじんにも見られないどころか、捨てるとかまじ最低ですよ。女の子たち可哀想に、悪いこと言わないからこいつだけはやめておいたほうがいいよ。もっといい人いっぱいいると思う。女の子の気持ちわかってくれる優しいひとが。たとえば近藤くんとか山崎くんとか。こいつなんざ、顔がいいってだけで女心を弄ぶ最低男ですよ。
「女の敵だな」
「テメーは女じゃねーんだから関係ねーだろが」
「あんたはどうしてわたしにそんなにも喧嘩を押し付けるかのごとくに売ってんのさっきから。いい加減腹が立ってきたよもう帰るよわたし」
「おっと。ゴミはゴミ箱にねェ」
「しらねーよ勝手に捨てればいいじゃん」
「まァ困るのは明日登校して女どもに睨まれるオメーだけどな」
「ちょ!なんでわたしが犯人なってんの!?どうせありもしない噂流すつもりだろ、わたし見ず知らずの女の子に恨まれるのやだから!ひきとってくだ、さ、い!」
ばさばさー、と、大量の手紙を掬い上げて押し付けたのに、沖田はひょいとよけてしまったので床にそれらが散らばった。はらはら舞って、落ちる。おんなじ数の女の子たちの気持ちも一緒に落ちる。これだからモテる男はいやなんだ、こうやって、足蹴もなく「落ちて」しまった気持ちはどうなるんだ。わたしの中でなにか音をたてた。じくん、って、いった。
「沖田、」
「何でィ」
「あんたはこうやって何人もの女の子をぼろ雑巾のように扱うのか」
「はは、ぼろ雑巾って」
「そういうのよくないとおもう」
たとえば呼び出された場所になぜか私を連行していき「興味ねェ」とか、下駄箱に入れてあった差し入れを「名字オメー食え」ってわたしの口の中にぶっこんだりとか、きゃあきゃあ騒ぐ女子の横で「うるせー寝れねーからどっか行け。名字寝てる間俺に誰も近づけんなわかったな」って辛辣に毒を吐いたりとか。モテる男は違うねえなんてはじめは言ってたわたしだが、あまりにもひどすぎる。わたしの扱いもひどすぎる。影で泣いた女の子を何人も知っているから、だからこそ、言わずにいられないのだ。そしてわたしも泣きそうになる。ばかだと解っているけれど。
「女の子たちがどんな気持ちでこれ書いたかわかんないの?」
「いらねェもんはいらねーよ」
「だからって、」
「…じゃあ、俺がこれをちゃんと持って帰って一つ一つ読んでありがとううれしいよなんて返事書いたらオマエは満足なのかよ」
…え。なぜそこでわたしが満足か否かの話になるんだ。話の流れについていけないままぽかんとしていたら、とっても不機嫌そうな顔をしている沖田が、床に散らばったラブレターのひとつを拾って、わたしの顔の前にひらつかせながら言った。
「名字からじゃねーなら何もいらねェや」
そしてそのままそのラブレターをかき集めて拾って、ごみ箱に突っ込んで教室を出て行ってしまった。なんだそれは。なんだ今のは。いまなんて言った?いまだに頭の追いつかないわたしが唯一思い出せたのは、珍しく真っ赤に染まった沖田の耳たぶだけだった。