小説 | ナノ




瞬星シリウス


※仁王がプレイボーイです









その日の仁王のほっぺたは片方だけまっかだった。


「…ねえ仁王」
「んー?」
「また別れたの?」
「ああ」
「まじでか。理由は?」
「仁王くん、名字さんと二股かけてるんでしょ!だそうで」
「ぶはっ」
「女ってのは思い込みが激しい生き物じゃのう」
「二股どころじゃないのにね」
「まあ、知らんほうがええこともあるってことじゃ」
「ていうかあんたもフォローくらいすればいいのに」
「面倒くさいから却下。それに相手が聞く耳もたんからどうしようもなかろ」


さっきから相変わらず仁王の視線は私ではなく、まっしろでうすっぺらい機械のほうにむいている。どうせまた、新たな「彼女」にメールでも送ってるんだろう。


「…で?今度の人は?」
「S大の女子大生」
「S女かよ!レベル高!ていうか年上は懲りたってこないだ言ってたじゃん」
「寄ってくるんじゃから仕方ない。俺からは何も言ってないんじゃけどなあ」
「なにげにモテます宣言してんじゃないよ」
「まあ実際モテるけんの」
「うざい。否定はできないけど激しくうざい」


私はもういろいろあきらめて、フェンスに寄りかかって空を仰いだ。今日も平和に雲はながれてゆく。この広い広い空の下で、どのくらいの女の人がこの詐欺師によって騙され泣かされ傷ついたのかと思ったがやめた。私がそんなことを気にしたとて一体この世界に何の影響があるというのか。ばかばかしいことこの上ない。


「あ、そういえば仁王くん」
「何じゃあ、名字さん」
「例の平手打ち彼女さんのせいでね、」
「うん」
「あんたと私がデキているという噂が敷衍している件について」
「ほほう?」
「どうにかしてくれ」
「知らんよ。俺が流したわけじゃなか」
「あんたの元カノが流したんだよ」
「言わしとけ、楽しいから」
「私は楽しくないんですけど」


心底嫌そうなトーンで言ってみたが、仁王の視線がこっちに流れることはない。あたりまえだ。少しでも期待しかけた私の腕よ瞳よ心よ、可哀想に。


「楽しかろ」
「まったくもって全然楽しくない」
「つれないのう。…ま、安心せい」
「なにを」
「俺は名字には手は出さん」


…あんたが私に手を出さなくても、あんたの元カノがかわるがわる毎回私に手を出すんだよ。ちょっと暴力的な意味で。何度も被害を訴えたがすべてのことの根源、もとい悪の根源であるこいつはそれを全く持って気にする様子を見せなかった。この薄情者。誰のせいでこんな迷惑被ってると思ってるんだ、というのは世間一般的にみるまっとうな意見であり、私の今現在最も主張したい意見でもあるけれど、こいつの前ではすべて無に帰すのでもう色々言わないようにしている。あれか、これも詐欺のひとつなのか?わたしもこいつにいいように利用されているのか。ひとの気もしらないで。


「こーゆーの知っとっても離れてかん奴、お前さんくらいじゃからのう」
「なにを今更」
「そうじゃな。今更か」
「ふーん、じゃあ私が見捨てたら仁王に味方はいなくなるってことか」
「はは、」
「なによその笑い、心配しなくても見捨てないよ」


ようやく仁王がこちらを見てちょっとだけ笑った。いまこの瞬間ようやく私ははじめて、S女のインテリ女子大生に勝ったらしい。またすぐに取り戻されてしまったけど。今度は何週間続くのかねえ、なんて言って鼻で笑う。まっしろな携帯電話の向こうに居る彼女も、仁王の頬にまっかな手形をこしらえた彼女も、お得意のペテンにかけられた。むしろ自らかかりに行った。そして傷つき傷つける。かわいそうに、かわいい女の子たち。傷つけられてぼろぼろになる。むなしく響いた同情は、私の心をきしませた。そんなの、いつものことだけど。そんなこと、解りきっているけれど。だけど私は。



「きっと、名字みたいなのを彼女にしたら俺もちっとはましな人間になれるんじゃろうなあ」
「はあ?あんた私には手出さないって言ったばっかじゃん」
「ん?出して欲しいんか?」
「バッカ。願い下げだ」
「こっちこそ」



どんなペテンにかけられてもいいから、どれだけその手でぼろぼろにされたっていいから、たった一度だけでいいから。あなたに愛されてみたかった。






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