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乱反射するプリズム



「好きです。俺と付き合うてください」



ぽかんと口があくほど吃驚した。そんなセリフは漫画の中だけだと思っていたのだ。きょろ、とあたりを見渡すけど、吹きっさらしの屋上には彼と私しかいない。秋の風が優しく髪を撫でていった。



「……え、わたし?」
「他に誰がおるん?」



はは、とちょっと緊張が解けたように笑う彼を見て、罰ゲームですか?と言おうとした口は閉じてしまった。真っ赤に顔を染めて、いっぱいいっぱいだというように視線をあちこち泳がせる彼が、冗談やでまかせを言っているようにはとても思えなかったのだ。


だけどわたしだって、いっぱいいっぱいだった。普段とりわけ男子と喋るわけでもないし、それどころか男の子はニガテだった。怖いのだ。男兄弟はいるけど年の離れた弟だけだし、言ってしまえば慣れていない。同じ年の男の子と接すること自体に。告白だって、生まれてこのかたされたことがなかったし、したこともなかった。だからこんなわたしに彼氏なんてできるわけないって常日頃そう思っていたし、でもそれでもそれなりに人生楽しいからいいか、さえ思っていた矢先の出来事である。しかも相手は背も高くって、おまけにすっごくいけめんだ。わたしにはハードルが高すぎます神様。何て言ったらいいのか、どうすればいいのか、てんでわからなかった。パニックになった。頭のなかがぐるぐるして、沸騰しそうに熱くて、どうにかなってしまいそうだった。



「あ、あの…、ごめんなさい!」




だから、逃げた。告白してくれた、男の子の名前も知らないまま。
























「あ」
「あ、」


次の日、学校に行ったら下駄箱で昨日の彼に遭遇してしまった。どきんと心臓が跳ね上がる。ひ、とひきつった声が上がって、登校したばかりだというのにそのまままわれ右しようとした私の腕は「待って!」がっちりホールドされて、ヒイイ!と情けない声が心の中で漏れた。振りほどけない。こうなったら謝るが勝ちだ。



「あ、あの、ごめんなさ、ほんと、わたしっ」
「あ!す、すまん!痛かった?」
「い、いえ…、大丈夫です」
「昨日といい今日といい…いきなりごめんな」


見ず知らずのやつに、いきなり好きとか言われても困るよな。そう言って彼はまた、ちょっと困ったみたいに笑って、手を離してくれた。柔らかいその声に、おずおずと顔をあげて見上げてみれば、頭一個分くらい背の高いその人は、じっと私の目を見つめた。たったそれだけなのに。それだけのことなのに、男の子に慣れていない私はびくっと肩を震わせてしまう。男の子と視線を合わせることに慣れなくて、居心地が悪くて、さっとすぐにそらしてしまった。


「俺のこと、知っとる?」
「え、ええと…ごめんなさい、」
「ええよ。俺、白石蔵ノ介っていうねん」
「わ、わたし、名字なまえです…」
「はは、それはさすがに知っとるわ」
「!!すっ、すみません…!」


よくよく考え、なくたって、彼はわたしのことを好きだと言ってくれたのだから名前くらい知っているに決まってるだろう。は、恥ずかしい!わたしのばか!!さああと血の気が引いて行くのを感じていたら、彼、白石くんは「謝らんといて」と言った。ああ、もしかしてこの人は、いい人なのかもしれないなぁ。


「昨日言ったことやけど、忘れてくれてええから」
「えっ、…え?」
「あ、いや、忘れるっていうか。好きなんは変わらへんけど、付き合うて云々は、な。ええわ、まだ」
「は、はあ…」



「もっと名字さんに、俺のこと知ってもらってから、もっかい告白するわ」




俺も名字さんのこと、もっと知りたいし。
そう言って笑った彼の笑顔はとてもまぶしかった。








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