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キスミーベイビー


※大学生




「おはようございます」





目を開けたら見慣れない部屋がぼんやりと寝ぼけ眼に映って、どこだここは、と廻らない頭を働かせようとした瞬間、ちょっと低くてよく通る声が私の意識を揺さぶった。


「よう寝てましたね。もう昼やで」
「……は?ていうか、ここどこ、」
「俺の家っすけど」


しれっと言い放つ、ピアスをじゃらじゃらつけた黒髪のイケメン。ピアスで黒髪のイケメンといったらひとりしか思い当たらないけどいやいや違う。きっと夢だろう。ガバリと起き上った拍子にくしゅん!ひとつくしゃみをした。そういえば何か肌寒いような、と思ってみればなぜか私はキャミ一枚というなんともまあ無防備な格好をしていたのであった。ってちょっとまてよ!なんで私服着てないんだよ!混乱する頭で慌ててシーツをかき集めたら、目の前の彼は何が面白いのか私を見下ろしてくつくつと笑った。一体なにがどうなっているんだ、


「まぁあんだけ汗かいたんすから風邪ひくのもしゃーないすわ」
「え、いや、あの、ていうか、…財前?」
「なんか飲みます?」


私の問いかけはあっけなくシカトされた。よくよく見てみれば彼も上半身ハダカにジャージというちょっと理解に苦しむ格好をしている。いや、イケメンはどんな格好をしても似合うので羨ましいという、話ではなく、問題はなぜ私がこの人の家でキャミ一枚でベッドの上に横たわっていて、表情一つ崩さない彼は鍛えられた腹筋をさらけだすような格好をしていて、私に水の入ったコップを差しだしているのかということだ。差し出されたそれと彼を交互に見つめていれば、相変わらずしれっとした表情で彼、財前光は言い放った。



「もしかして覚えてないんすか?」
「え、あの、だからなにが」
「処女卒業やー言うてはったやないですか」



ぎゃふん。一番いやな予感が的中した瞬間だった。そんなまさか!昨日はサークルの飲み会があって、テスト明けだしガンガン飲もう!ということでみんなで悪ノリして矢継ぎ早にお酒をオーダーしまくったことは覚えている。たしか隣には、目の前の彼、後輩にあたる財前光もいた。そこまでは覚えてる。問題はその後だ。わたし、どうやって帰ったんだっけ?



「あんなにアンアン喘いでたのに」
「!?」
「忘れたなんてひどいやないすか、なまえさん」
「!!?」



こいつたしか昨日までは私のこと名字先輩とか呼んでなかったか?たまーに顔合わせる程度の仲だったじゃないか。それがなんで急に名前呼び?てか、あ、喘ぐってなんの話!?やばいまったく覚えてない。さーっと顔色が引けていく私の様子を見て財前はふっと不敵に笑った。




「まあそういうわけなんで。これからよろしゅう」



いったい何がどういうわけでよろしゅうなんだとテンパる私の手を引いて、ちゅっと指先に音を立てた財前の伏せたまつげが随分大人っぽく見えてドキリとしたなんて。たぶん二日酔いのせいだ、絶対そうに決まってる。








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