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うるわしき三月の君


※3-2クラスメイト男子モブ視点





中学ん時、忍足謙也もといケンヤはクラスのムードメーカーやった。クラスのというよりもはや学年のと言ったほうが正しい。明るくてノリがよくて、友達思いで学年じゅうのやつらみんなアイツの友達なんやないかって思うくらいに、とにかく人望がある男やった。


俺がケンヤと同じクラスになったのは3年のときが初めてやけど、1年のころ俺の友達がケンヤと同じクラスで、そいつ経由でなんとなく話したことが一度か二度あるかないか程度の仲やったと思う。3年になった新学期初日、教室に入るなり目が合ったケンヤが「そーいやちゃんと話したことなかったよなあ!一年よろしくな!」と、まるで昔からの友達に声をかけるみたいに人当たりのよい笑顔でにかっと笑ったから、やっぱりこいつええやつやな、と思って、それからはよく話すようになった。


そんなケンヤに好きな子がおるっていうのがわかったのは、毎度こっそり行われている女子の人気投票の最中やった。女子にバレたら殺されかねんから絶対秘密厳守で、だいたい昼休み直後の体育の着替えん時に集計しとった。男子はいっつも教室で着替えることになっとって、テニス部の集まりとかなんとかでケンヤと白石が遅れて入ってきたとき、もう投票はあらかた終わっていた。なにやっとるんと声をかけながらケンヤが覗き込んできて、そういうのは苦手だと言って以来一度も参加せんかった白石は、苦笑いしながら俺らが騒ぎ立てているのを遠巻きに見ていた。


そして開票された結果はまあいつもと変わらん顔ぶれで、まあそうなるわなぁとどこからか声が漏れたりした。1位は今年のミス四天と名高い学年でも有名な美人で、2位は可愛い顔立ちをしていて人当たりがよく男友達も多い人気者やった。ここまでは例年どおり想定内やったけど、俺らは3位の女の子の話題で持ちきりになった。


名字さん急上昇やん、と誰かが囃し立てるように言って、実際1位から3位までは1票ずつの差しかなかった。3位の名字さんはおんなじクラスで、今まであまり目立ったことはないけど、最近きれいになったとこっそり噂されていた。大人しくてわいわい騒ぐようなタイプではないけれど、誰に対してもいつでも優しいし親切な女の子やった。丁寧でゆっくりした所作とか、さらさらの髪の毛とか、いっつもきれいに整えられとる爪とか、笑ったときにできる小さなえくぼとか。そういうんがええなって思ってる男はたぶん少なくないやろなと思っていた。そして名字さんの名前が挙がった瞬間、目の前にいたケンヤの顔がわかりやすく固まった。


あ、やっぱこいつ名字さん狙っとるんやな。そう思った瞬間目が合ったケンヤが「あーほら!もう着替えな授業はじまんで!」そう言ってあからさまに俺らを蹴散らそうとしたから、誰かが茶化すように言った。


「ケンヤぁ!もしかして自分名字さんのこと好きなんちゃう?」
「は、はあ!?んな、......」


馬鹿正直に顔を真っ赤にしながらどもってしまったおかげで、ケンヤは名字さんのことが好き、という噂が一瞬にして学年中を駆け巡った。ほんまに嘘がつけなくて正直もんなんは長所やけど、真っ直ぐすぎて損しやすいやつやとつくづく思う。まあそんなところも、ケンヤがたくさんの友達に好かれる理由のひとつではある。


俺は普段の様子を見とってなんとなく、あいつ名字さんのことすきなんちゃうかな、なんて思っていたから今さら驚いたりせえへんかったけど、それからケンヤが名字さんに話しかけるときに、あからさまにいちいち緊張した様子だったのが笑えた。そのたびに周りが囃し立て、うっさいわ!と顔を赤くしながらケンヤが吠えて、なんも知らずなんの罪もない名字さんは頭の上にハテナを浮かべながらその様子を見ていた。名字さん、気にしなくてええから。と優しく言った白石にさえもキッと効果音がつきそうなくらい恨みがましい視線を送ったケンヤはたぶん無意識やと思うけど、だいぶ重症やと思ったらまた笑えた。


意外にも好きな子には奥手なケンヤが動かざるを得なくなったのは、隣のクラスのイケメンが名字さんに告白したらしいという情報が流れてきたときやった。そいつは女子にも大人気やったし、前に名字さんと同じクラスやったから、そこそこ仲良さそうな雰囲気ではあった。俺らは、おいおい先越されとるやんどうすんねんケンヤ、と詰め寄って、ケンヤはまたしても分かりやすく青ざめて視線を泳がせとった。あんなに分かりやすく態度に出しとるくせに今さらなにをそんなにびくついてんねん、と当時は半分呆れたけれど、きっとそれほどほんまの本気でケンヤは名字さんのことが好きやったんやろなって、今ならわかる。


そこからはもうクラス総出でどうにかしてケンヤと名字さんをくっつけようと必死やった。そんなところもやっぱりケンヤの人望というか、みんなに好かれとった証拠やと思う。あの日名字さんに投票したやつも、名字さん可愛えよなぁとちょっと前に言ってたやつも、ケンヤといっつも騒いどるクラスの女子も一緒になってケンヤの片思いを全力で応援した。ケンヤは昔からそういう奴やった。それに、隣のクラスのイケメンよりもケンヤとおるほうが名字さんは楽しそうやったし、誰の目から見てもケンヤと名字さんはお似合いやった。


俺らが何だかんだとしつこく根回しを続けた甲斐あってか、しばらく経ってからケンヤがやっと名字さんに告白して、名字さんもそれに頷いて、無事に二人は付き合うことになった。その次の日はクラスみんなでクラッカーを打ち鳴らすほどのお祭り騒ぎやったし、黒板には卒業式ばりに祝いのメッセージが書き込まれてたし、担任のセンセも、おぉ〜自分らやっとくっついたんか〜よかったなぁ〜青春やな〜なんて言ってその日のホームルームはほぼその話題で終わったし、ようやくうちらの努力が報われたと言っておいおい泣いとる女子たちもおった。ケンヤはなんやこれ!恥ずいわ!と顔を真っ赤にしながら言っていたけれど、それでもやっぱり嬉しそうで、縮こまりながらも同じように顔を真っ赤に染めた名字さんと顔を見合わせ笑っていた。


それからケンヤとも名字さんとも別の高校に進んだ俺は、大学も大阪から離れたとこに通うことになったし、そもそも中学んときのやつらとあんまり連絡とることもなかった。仕事の都合上、同窓会に顔を出すこともあんまりないし、こないだ10年ぶりに会ったやつもおるくらい。たまに、ケンヤと名字さんまだ付き合っとるらしいとか、とっくに別れたらしいとかより戻したらしいとか、ほんまか嘘かわからん噂をうっすら聞くばっかりやったけど、まだ付き合っとるって聞いたときはなんや知らんけどほっとしたような気分になっとった。やってほんまに二人はお似合いやったし、くっつけようとクラス一丸になったのもいい思い出やったし、あの時の最高に楽しかった四天宝寺が、まだちゃんと形になって今に残ってるような気がして。





ーーそんな俺やから、正直なんで呼んでもらえたんやろとか、しかも二次会とはいえなんでこんなとこで喋っとるんやろとか、代表スピーチしとった白石ならわかるけど、もっと他に適任おるやろとか、いろいろ思うことは仰山あんねんけど。でも、最初にこの話聞いたとき、なんで俺なんって言った俺にケンヤが「やってあん時、自分が一番応援してくれてたやん」って当たり前みたいな顔して言ってくれたんが、俺、ほんまに嬉しかった。まあお前のことやからどうせ、ほんまはあの頃俺も名字さんのこと好きやったとか全く知らんかったんやろうけど。あ、やっぱり気づいてなかったんや。ええやんもう、時効やろ時効!おい、なんで今さら謝ってんねん。ちゅーかそもそも謝んなや!めでたいはずなのになんや微妙な気持ちになるやろ!名字さんも申し訳なさそうに頭下げんといて!えーと、せやから俺は、いままで色々大変なこともあったやろうけど、こうやって今日、あの頃と変わらん笑顔で笑い合っとる二人の晴れ姿見ることができて、ほんまに嬉しいです。って、おい!泣くなやみんなして、俺までつられて泣けてきたやんか!なんや長くなってしもたけど、ケンヤ、名字さん。改めて、結婚ほんまにおめでとう。これからもずっと二人で仲良く、末永く幸せにな。








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