小説 | ナノ
救済措置
なまえちゃんは完璧主義者だ。自分ではそんなことないって言ってる。でも俺には分かっちゃうんだよ。なまえちゃんは自分が許せなくて、何処まで行っても完璧になれないと思ってて、ちょっとしたミスでもやっぱ自分はダメなんだって思っちゃうような、そんな子。ぶっちゃけそういう人間は弱いと思うし興味もないんだけど、なまえちゃんだから話は別。
なまえちゃんは自分で自分のことを分かってない。だからいつでものほほんとして笑顔を見せて、まるで大丈夫ですよとバリアを張ってる。だけどその奥ではいつだって自分を許容できてない。普通に付き合ってれば誰にもわからない位「完璧」に仕込まれた笑顔の裏の表情に気づいてるのは、きっと俺くらい。
だから、ね。俺はなまえちゃんのことよーくわかってるんだよ。誰よりも、なまえちゃん自身よりもね。
「…臨也さん」
「なぁに、なまえちゃん」
「私そろそろ帰りたいんですけど…」
「それはダメだなぁ」
「悪性の風邪だっていうから来たのにピンピンしてるじゃないですか」
「あ、いいね。その顔」
完璧を目指していて、自分よりも他人を優先するようななまえちゃん。俺がちょこっと演技をすればすぐに信じ込んで、こうやってのこのこ一人で俺ん家に来ちゃうようなおバカさん。そんな誰にでも優しく振舞うなまえちゃんが、理不尽だ、とでも言いたいかのように顔をゆがめて見せるのは俺にだけだった。
「ドSですか。知ってたけど」
「なまえちゃんがドMなんでしょ?分かってるくせに」
「違います」
「違わないの」
「!」
なまえちゃんの細い腕をぐいっと引っ張って、ソファーに押し付けた。こんなに細くて白い腕してるくせに、もっと痩せなきゃ、とか言ってさ。そうやって自分をいじめてること、気づいてないでしょ?なまえちゃんは寂しがりだから、自分の心のことばっか考えちゃうんだよ。だから俺のことしか考えられないようにしてあげる。
「ちょ、臨也さん、!」
「なまえちゃん、そんなに自分いじめて楽しい?」
「…何言って、」
「それなら俺にいじめられなよ」
そのほうがずっと人間っぽいよ。
そう言って笑ってやれば、なまえちゃんは一瞬だけ心のうちを見透かされたような顔をした。俺はその表情がたまらなく好きだ。なまえちゃんが、表面にはり付けてる余裕を全部ひっぺがしてやりたくなる。もっと、知りたくなる。
「なまえちゃんいじめるのは、俺だけでいいの」
耳元で囁いてまっしろな首筋に吸いつけば、ふ、と鼻から抜けるような声を出したなまえちゃんの顔がますます羞恥に染まった。きっと自分でも聞いたことないような声だったから、恥ずかしくなっちゃったんだろうなぁ。そうそう、その調子。それでいいんだよ。
大丈夫、君が愛せないなまえちゃんも、俺がちゃあんと愛してあげるから。そうやってさ、もっともっと本当のなまえちゃんを見せてよ。いつか君が、俺のことしか見えなくなってダメになっちゃうまで。