模試
2012/10/14 00:47





拝啓 本宮君

お元気ですか?
相変わらずの猛暑ですがお体は壊していませんか?
貴方は今も笑顔で過ごしていますか?

もうすぐ、
夏が終わりますね。

本宮君は、
あのときのことを、
あの夏祭りの日を、
覚えていてくれていますか?



――――――――――……



「あれ、俺遅れた?」
「もっ、本宮君……!」

彼の声に私の肩が跳ね上がる。
と、同時に顔に熱が集まってきた。
此方に走り寄ってきてくれる本宮君を見て条件反射で袖で顔を隠す。
恥ずかしい、という一心で全身を隠したい私に本宮君声を上げた。

「浴衣じゃん!」
「う、うん……お母さんが……」
「へぇ……」
「……あ、あの」
「ん?」
「変……っていうか、似合ってないよね。ごめんね。見苦しいもの見せて」

繁々と私の浴衣姿を見る彼の目に耐えきれなかった私は自分から自爆した。
馬鹿だ……と、自分の行いに泣きたくなる。
帰りたい気持ちを胸いっぱいにする私。
けれど、そんな私に本宮君はキョトンとした顔で言った。

「似合ってんじゃん。見苦しくねぇよ?」
「え……」
「そんなことより、回ろうぜ。折角の祭りだしさ!!」

嬉々としてそう言う本宮君に私は想像とは違う反応についていけない。
そんな私の手を本宮君は握った。
驚く私だけれども、本宮君は気にしていないようで私の手を引っ張っては祭りの中へと入っていこうとしている。
そんな本宮君に、

「やっぱり……」

小さく呟いた。
この言葉は周りの声に紛れて彼には聞こえていないだろう。
それでいい。
楽しそうに目を輝かせている彼の目に私は小さく笑った。



――――――――――……



あのとき、
浴衣姿を褒めてもらえて凄く嬉しかった。

そういえば、あのとき本当はタケル君とヒカリちゃんも行くはずだったよね。
けど二人は直前に用事が入って来なかった。
でも、違うの。
二人は私の気を使ってくれただけなの。

自己中な私を許してほしい。



――――――――――……



「回ったぁー……」
「そうだね」

お祭りの列から外れて暗いけれど静かな芝生の上に二人で座り込む。
本宮君は満足そうにそう言って片手に持っていたたこ焼きを一つ口に入れた。
そんな彼の横顔を私は見つめる。
美味しそうにたこ焼きを食べる彼に私は笑った。
私の視線に気づいたのか、本宮君の目が私に向く。
近距離で向けれられた彼の目にまた私の顔が熱くなるのを感じた。
しかし、赤くなっていないのか又は見えないのか本宮君は気づいていないようだ。
そんなことにホッとしていると何かを差し出される。
それはさっきまで本宮君が食べていたたこ焼きだった。

「……え?」
「食べたいんじゃねぇの?」
「え、いや、違うけど……」
「マジ?……でも、美味しいから食べてみろよ」

そう言って差し出す本宮君。
動揺する私は目をうろつかせる。
しかし、そんな私に本宮君は差し出し続けた。
下におろした目を本宮君の方へ向ける。
本宮君は私が食べるのを待っていた。
そんな彼に私は負けてしまう。
そして
差し出されたたこ焼きを食べた。

「美味しいだろ」
「う、うん」
「やっぱ祭りっていいよなぁ」

そう言って残りを食べていく本宮君を見つめる。
口の中のたこ焼きは少し熱かったけれど、美味しかった。
瞬間、

「あっ」

大きい音が響いた。
そして、不意に上がった光。
視界に端が輝いて咄嗟に其方を見れば空に巨大な花が咲いていた。
キラキラと光るそれは目に焼き付く。
暗闇に光るそれは花火だった。

「すっげぇ……」
「綺麗……」
「だな!」
「うん」

消えかけた花火を追うようにまた違う花火が上がった。
次々に咲いていく花火に本宮君の目は釘付けになっている。
その横顔は光を浴びて明るい。
夢中で輝く目はもっと輝いていた。
そんな彼に私は目を囚われる。
と、同時に泣きたくなった。

「本宮君」
「ん?」

私の声に反応した本宮君が私を見る。
その目に、
苦しいくらい心臓が鼓動を打った。


「スキ」


花火と同時に告げた言葉は貴方に届いていただろうか。
彼の頬にキスをした私はそのまま逃げるように立ち去った。



――――――――――……



あのときはごめんね。

あんなことすべきじゃなかった。
ただ、貴方にこの想いを知って貰えれば十分だったの。
きっと最後だからって暴走しちゃったんだと思う。
本当にごめんなさい。

忘れたかったら、忘れて。
忘れていいから、
私のことも忘れていいから、

どうか、
笑顔でいてください。



                             敬具



――――――――――……



「31日……」

カレンダーに付いた丸印に手を添える。
この日の一昨年は、
彼と過ごした最後の日。

「手紙、届いたかな……」

添えた手を片方の手で包んでギュッと握る。
そして、
彼を初めて知った日を思い出した。

元気な彼を初めて知ったのはグラウンド。
放課後にサッカーをしているときのいきいきしている彼に私は目を奪われた。
それから何度か彼を見るようになって、
クラスが一緒になったのはそれから少し経った頃。
その頃には、彼に惚れていた。
ヒカリちゃん経由で彼と話すようになれて、凄く嬉しかった。
彼の色々なところが好きになっていった。
明るい笑顔。
無邪気な表情。
そんな中でも特に、
ヒカリちゃんのお兄さんに向ける憧れを映す目。
タケル君に向けるライバル心むき出しの目。
そして、
ヒカリちゃんに向ける、恋をしている人の目。

全部知っていて私は彼が好きだった。
そして、
ヒカリちゃんに向けられている目が私に向けられないことも知っていた。

だから、
これでいい。


「ありがとう」

そう呟いて八月のカレンダーを破り取る。
31日には丸印の上に大きくバツ印が描かれていた。

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