俺がまだ探偵社に入社したての頃、年が近いからという理由で与謝野さんとよくペアを組んで仕事を熟していた。能力も不安定で、ましてや新米の俺だったから比較的簡単な仕事ばっかりだったけど、一度だけピンチになったことがあった。
仕事の内容は警察からの依頼で、とある村の幼児達が挙って姿を消した不可解な事件を解明して欲しいとのこと。
事件自体は隣町の山に住んでいた老夫婦が犯人で、あっさりと解決したんだけどそこからが問題だった。

探偵社に恨みがあるらしい物騒な物を持ってらっしゃる集団に囲われてボコ殴り。そん時の俺の能力なんて喧嘩には応用出来るものでもないからサンドバック状態。あ、俺 死んだわなんて呑気に考えていたら与謝野さんがヒーローの如く登場して助けてくれた。(男として情けない…)



「与謝野さん、ありがとう」

「能力だけに頼るンじゃなくて、肉体的にも鍛えることだねェ。こんな事ざらにあるンだよ」

「…以後気をつけます」

「…ところで白秋、怪我してるじゃないか。治してやろうか?」

「え、打撲とかですけど治るんですか?」



仮にも医者だからねェ、と妖しく笑う与謝野さんの言葉を鵜呑みにした俺はこの後の恐怖を知らなかったんだ。(いや、確かに与謝野さんはお医者さんなんだけども)
医務室に足を運ぶ与謝野さんの後ろに並んで歩く。国木田くんや乱歩さんには哀れみを含んだ視線を頂いたけど、無知な俺には分からない。
ぱたり、と医務室の扉を閉めて促されるまま手術台に横たわると鈍く光る刃物を振り上げられ…もうここからは自主規制。国木田くんや乱歩さんのあの目の意味が漸く分かった若かりし頃。





懐かしいなあなんて思い出に浸っているとカチャリと金属音が聞こえた。何だ何だと思いパッと目を開ける(あ、今見てたのは夢だったのか)
すると眼前に迫る夢にも出て来た鈍く光るナニカ。ひっ!と声にならない叫びを上げるとそれはゆっくりしまわれた。




「おや、もう目覚めたのかい。
これからって時なのに…相変わらずタイミングが悪いねェ白秋」

「よ、よさの…さん」

「さァ、続きをしようじゃないか。
逃げるンじゃないよ」




にたりと笑う与謝野さんが悪魔に見えるのは少なくとも俺のせいじゃないと思う。







(生きているって素晴らしい)




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