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▼恋のきっかけ


白澤さんと付き合い始めて一週間が経とうとしていた。
まさか告白が受け入れられるとは思っていなかったし、さらにはこの一週間毎日一緒に帰っているのだから、なんか、本当に夢みてぇだ。
この一週間で何度かどうして自分に告白をしてきたのかと白澤さんには聞かれた。本当のことを言えない俺は、一目惚れだったと誤魔化したが白澤さんにはそれが誤魔化しだと気付かれている気がする。あの人は案外人の感情に鋭いから。

白澤さんを好きになったきっかけはもう十年くらい前のことだった。親父に無理やり連れられて訓練をさせられていた日々。そんな中一度だけ家から少し離れていた公園に逃げた時があった。


「泣いてるの?大丈夫?」


遊具の陰に隠れてうずくまっていた俺に声をかけたのが白澤さんだった。彼は俺の隣に座り込むとぎゅっと俺の手を握りこんだ。


「……そっか」

「?」


彼はしばらく俺の手を握っていたが、そう一言だけ呟いて手を離した。そうして不意に抱きしめられる。突然のことで驚きと久しぶりに感じた人の温もりに自然と涙が零れ落ちた。その日は泣き止まなかった俺を家まで送り届けてくれた白澤さん。本当は帰りたくなかったけれど、手を引いてもらうのはとても心地よかったから大人しく連れられて行ったのを今でも覚えている。
俺はその日から訓練を終えた後毎日その公園に行った。白澤さんは家が近いのか毎日待っていてくれて。俺が火傷を負ってその公園に行けなくなったのは、それから一週間も経たない日のことだった。
ようやく病院を退院してその公園に向かった時にはもう彼はいなかった。聞いた話によると引っ越してしまったらしい。俺はその日、彼と初めて会った時と同じように遊具の陰にうずくまって泣いた。声をかけてくれる人はいなかった。

そこから数年経って、俺は偶然白澤さんを見かける。知らない女と手を繋いで歩いている彼を目にした時には反射で反対方向に走っていた。きっと彼はもう俺のことを覚えていないのだろう。それもそうだ、俺たちが一緒にいたのはたったの一週間足らずで、思えば名前さえも知らなかった。

そこからさらに数年。入学した雄英高校で彼を見かけた。名前は白澤朔也、俺の一つ年上。中学の時に彼女がいたのを知っていたけど、それでもどうしても気持ちを伝えたかった。
男で、名前さえも知らないやつが十年近くも自分のことを好きだったなんて気持ち悪いだろうから、入学したときに一目惚れだったということにして告白した。まさか本当に付き合えるとは思ってもいなかったけれど。


「轟…?おーい轟くーん?」

「っ!いつからいたんですか…?」

「今来たとこだけど…何かあった?」


泣きそうな顔してる。白澤さんはそう言って俺の頬を撫でた。途端に熱を持ち始める顔を隠すように俺は俯いた。


「なんでもねぇから、平気、です」

「全然平気そうじゃねぇけど…」


怪訝そうな顔をする白澤さんは少し唸った後、唐突に俺の手を取った。彼の手袋越しに体温が伝わってくる。本当は昔みたいに素手で触ってほしいけれど、彼が手袋をしている理由を知っているから我儘は言えない。それに今俺の心の内が知られたら多分恥ずかしさで俺が死ぬ。


「…どこ行くんですか?」

「今日は飯食って帰ろうぜ。先輩が奢ってやろう!」

「白澤さん…昨日金欠でやばいって言って…」

「うっ…まあ、なんとかなるだろ…」


大丈夫大丈夫と彼がへらりと笑うから、俺は黙って手を引かれるがままに歩く。いつかの光景と今が重なって見えた。違うのは俺が泣いていないことと、お互いのことを知っていることだろうか。


「轟は何が食べたい?」

「白澤さん金欠なので安いとこでいいですよ」

「うっ…」

「?」