▼告白と始まり
「好きです……付き合ってください」
自慢ではないけれど、この言葉はまだ十数年という人生の中で何度も聞いた言葉だった。 自分の顔はそれなりに整っていると自覚しているし、中学の時は告白されてなんとなく付き合っては別れるという行為を何度か繰り返していたと思う。高校に上がってからはそういった適当な付き合いはやめて、告白してきた子たちには申し訳ないが断っている。 何を隠そう俺は自他ともに認める面食いなのである。どうせ付き合うなら自分の好みの顔と付き合いたい。性格は後回しでいいから。 などという考えは最低であるとわかっているがやっぱり自分の好みには忠実でありたい。
さて、本題に入ろう。俺は今まさに告白されている真っ最中だ。 相手は俯いていて表情は見えないけれど。耳が赤く染まっているのだけは俺の位置からでもよくわかる。
「えっと…」
「……やっぱり男は駄目ですか?」
ぱちり、と不安げに揺れるオッドアイと目が合った。 …そう、俺は男で、告白してきた彼もまた男。しかもその彼はなんと1年のヒーロー科であって、さらに2ヒーローであるエンデヴァーの息子轟焦凍なのである。接点など全くない俺でも知っている有名人だ。あと顔がすげー好み。男だけど。 とにかく何故そんな有名人である彼が俺に告白してきているのか。ぶっちゃけ俺にもよくわからない。なにせ彼とは初対面なのだ。
「あー…あのさ、轟、クン…?」
「…!俺の名前、知っていてくれてたんですね…」
「まあ、有名人だしね?」
少し緊張が和らいだのか嬉しそうに目を細める轟焦凍。 あ、やばいこれすごくかわいいのでは?今キュンと来た。
「ていうか、俺男だけど…」
「?知ってます」
「ですよねー…」
顔はすごく好みだし、性格も良さそうだ。けど性別がなあ…。でもさっきの轟の表情にキュンと来たのも事実で。 心の内の葛藤にため息を零した。 それを自分に対してだと勘違いしたのだろう。轟は怯えたようにびくりと肩を揺らして、小さくすみませんと呟いて俺に背を向けた。ああ、彼は今すごく泣きそうな顔をしている。気付いたら俺の体は動いていて、轟の腕を掴んでいた。
「待って、今のため息はその…うん、自分自身に対してでお前に対してじゃないから」
「……あの、」
「付き合おうか、俺たち!」
「え…」
思わず発した言葉に自分でも驚く。 ああ、もう腹をくくれ白澤朔也。前言撤回はできない。それにいいじゃないか、男でも。だって顔が超好み!
「男に告白されたのは初めてだし驚いたけどさ、別に嫌じゃなかったし。でも俺お前のこと全然知らないからさ、これからたくさん教えて?」
な?と笑いかけると、綺麗なオッドアイからはポロポロと透明な雫が溢れ出した。
「え!?…え!?悪い!?俺ほんとにお前のこと名前くらいしか知らなくて…!」
「……違ぇ」
「轟…?」
嬉しい、と轟の口から小さな声で言われた言葉と、照れたように赤く染まった顔。 !!??かわいい!なにこれすげぇかわいい!一つ年下で、身長差も大して変わらない男に対してこんな感情を抱く日が来るとは…。 俺がそんなアホなことを考えている間、轟は涙を止めようとしているのか必死に目を擦っている。ああ、やめろやめろ目元が傷ついちゃうだろ。そういった意味も込めて轟の手を掴むときょとんと見上げられた。
「やべぇ最高か」
「?」
「あ、いやこっちの話。……今日一緒に帰る?」
「…!いいんですか…!?」
苦し紛れに話題を逸らすと、轟はぱあっと顔を明るくした。なんだこれ予想以上の反応が返ってきたぞ。かわいいかよ。 俺たちは放課後に一緒に帰る約束をして、そこで一旦別れた。もう昼休みも終わるし、なんせ俺たちは学年も違ければ科も違う。 そして一人になった空き教室で俺は叫んだ。
「何あいつめっっちゃかわいい!!」
白澤朔也16歳、新しい扉開けます!
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