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▼呼び方について


「轟君、朔也くんに変なことされてない?大丈夫?」

「おい半分野郎、あの面食いのどこがいいんだよ…目ェ腐ってんのか」


緑谷と爆豪にそう声をかけられたのは昼休みのことだ。どうやら二人は小学生のころ白澤さんの家の近くに住んでいた幼馴染らしい。羨ましいな。
そんな二人に白澤さんは優しくてかっこいいということを素直に言えば、同情を含んだ目で見られた。特に爆豪、お前のそんな表情初めて見たぞ。


「とにかく、朔也くんに何かされたらすぐに言ってね」

「何かされた時点ですぐに凍らすか燃やせ。遠慮はいらねぇ」

「お前らの中の白澤さんどうなってんだ?」


二人の目が本気だったのでとりあえずその場では頷いておいた。けど白澤さんにされて嫌なことなんてねぇから、個性を使う必要はないと思う。…ああ、でも嫌われたら嫌だな。


「…っていうことが昼休みにありました」

「あいつら俺の扱いひどくね…?」


放課後、いつものように白澤さんと並んで帰る。これはもうとっくに俺たちの中で習慣になっている。
学年も科も違う彼と長い時間一緒にいられるこの時間が俺は好きだ。


「…俺は白澤さんにされて嫌なことないから大丈夫だって言いましたけど」

「んんん」

「?」


白澤さんは口元を抑えながら小声で何かを言った気がしたけど俺の耳には届かなかった。俺は今何か変ことを言っただろうか?


「あー…えっと、あまり緑谷と爆豪の言うことは真に受けるなよ」


あの二人は俺の扱いが雑すぎる、と零す白澤さんを隣で眺める。…そういえば緑谷は彼のこと名前で呼んでいたな。


「(…俺も名前で呼んでみたらどんな反応をするだろうか)」

「おーい、轟ー聞いてるかー?」

「っ!はい、何ですか朔也さ、」


思わず呼んでしまった名前に思考が停止する。今までふわふわしていた感情が急激に冷えていくのが分かった。
…最悪だ、馴れ馴れしかっただろうか。いきなり名前なんかで呼んで彼はどんな顔をするだろう。


「っすみません…白澤さん…」

「あ、呼び方戻すの?いいよ、朔也で」

「いや…でも、」

「名前で呼ぶのは嫌?」


意地の悪い笑顔を浮かべる白澤さんに向かって小さく首を横に振る。朔也さん、と遠慮がちに呼んでみれば、彼はうんと満足げに頷いた。


「じゃあ俺も今度から焦凍って呼ぶかな」

「(焦凍…)」


じわりと体中に広がる感覚にむず痒くなる。自分の名前を聞いてこんなに嬉しい日が来るなんて誰が予想できただろうか。


「朔也さん、はすごいな…」

「褒めても何もでねぇけど」


そう言った朔也さんはその日の帰り、コンビニでお菓子を大量に買ってくれた。