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15



「一目惚れしました、俺と付き合ってください!」

「僕に触るな」


桜舞う四月、僕の手を握って馬鹿な事を言った草食動物を咬み殺した。
制服には新入生の証である花飾りが付いていたから僕より年下、しかも女子ではなく列記とした男子。その男は一般的に見れば端正な顔立ちをしていて、僕より背が高いのがムカつく。容赦なくトンファーで沈めたからこれで彼が寄って来ることはないだろう。その考えが甘かったことを僕はこの翌日に痛感することとなる。


「お早う、雲雀さん。今日も美人だな」


新学期早々校則を守らない奴がいないか持ち物検査を風紀委員に行わせていたところ、現れた昨日の男。何事もなかったかのように話し掛けてきたことに、思わず顔を顰めた。
彼の顔にはガーゼが貼られているから昨日僕が咬み殺した男で間違いは無い筈。


「……話し掛けないでくれる?」

「冷たいなァ…。嗚呼、でもその不機嫌そうな顔も好きだぞ?」

「消えろ」

「痛ってェ!!」


昨日と同じようにトンファーで咬み殺して、僕は彼を視界に入れることなくその場を後にした。


***


「…ん、」


カーテンの隙間から差し込んでくる光で目が覚めた。
……随分と懐かしい夢を見た。悠斗と初めて会った時の夢。あの日から一年と半年ほど。まさかこんなにも長く付き合いが続くとは、あの日の僕は思いもしなかっただろう。いつからだったか僕の方も悠斗を見て、出会い頭に咬み殺すことはしなくなった。その上今では彼の家に入り浸っているのだから、人生何が起こるかわからないものだ。


「(悠斗は…まだ寝てる?)」


彼の家に泊まる時、必ずと言っていいほど僕がベッドを占領していた。最初は文句を言っていた悠斗も諦めたのか、半年くらい前に人一人が寝られるほどの大きさのソファーを購入してそこで寝ている。
いつもは僕が起きるよりも早く悠斗は起きていて、キッチンから音がするはずなのに今日はそれがない。不思議に思って、僕は早々にベッドから抜け出した。


「悠斗…?」


リビングの大きめのソファー、その上で彼はたった今起きたかのように上半身だけを起こして一点を見つめていた。声を掛けても反応がない。
ただならぬ彼の様子に、近付いて手を伸ばした。


「ねえ、」


パシリ、と振り払われた手に目を丸くする。彼と過ごした一年半、こうして拒絶されたのは初めてだった。
悠斗は徐に僕を視界に捉える。その目は僕を見ているようで見ていなかった。彼の表情は無だった。それに対して段々戸惑いよりも苛立ちが増してくる。
いつもは嫌と言うほど向こうから来るくせに、いざとなったら拒絶ってどういうつもりだい?気付いたら僕はトンファーで彼を殴っていて、悠斗は抵抗することもなくソファーから転がり落ちた。


「…!?痛ってェ!え!?何…!?」

「やあ、悠斗。お早う」

「え、はよ……何でトンファー構えてんの?つーか何でそんな不機嫌!?」

「自分自身に聞けば?」

「俺が何をした!?」


頭を押さえて僕を見上げる悠斗は、先程のことが夢だったのではと思うくらいいつも通りだった。僕だけが覚えているという事がさらにムカつく。


「咬み殺す」

「危ねっ…!落ち着けってヒバリ!」


結局僕たちの攻防はお互いの腹の音が鳴り響くまで続いた。


***


夢を見ていた気がする。…気がするのは朝起きた時に何故かヒバリが不機嫌で、さらに咬み殺されそうになったことでうやむやになってしまったからだ。
最終的にお互いの腹が空腹を訴えたことでその場は収まったが、キッチンに立つ今も後ろから視線が突き刺さっている。


「(結局何の夢だったんだか…)」


細かい内容はどうやっても思い出せなかった。ただ、昔の…俺がこの世界に来る前の夢だったことだけは覚えている。ここ一年ほど昔の夢は見ていなかったのに、どうして今更。


「(まあ、判らねェことをうだうだ考えたって仕方ねェか)」


それよりも今は先ず、しかめっ面をして朝食を待っているであろうおひいさんの機嫌を直すことに集中しなければ。
リビングに居る筈のヒバリの様子が目に浮かぶようで、俺は思わずクスリと笑った。