07
俺が一方的にヒバリと気まずくなって数日が経った。なんとなくあれからヒバリと顔を合わせづらく、応接室にも顔を出していない。勿論ヒバリが俺の家に来ることもなかった。
「(当然と言えば当然か。もともと俺があいつの処に押し掛けていたようなものだし…)」
ヒバリは本来群れることを嫌う。それを知っていながら側にいる俺は大層目障りだっただろう。
「まあ、過ぎたこと気にしてても仕方ないよなァ」
久し振りにベッドへと寝転んだ。最近はヒバリが泊まりに来てベッドを占領するものだから、俺はソファーで寝ていたのだ。俺の家なのにな。
そんな時だった。山本から連絡が来たのは。
***
最近の休日と言えば、ヒバリに呼び出されて学校に行くか、ヒバリが群れている奴等を咬み殺しに行くのに付き合うかのどちらかだった。
「なのに何故俺はこんな山の中に居るのだろう…」
「悠斗?どうかしたのか?」
「独り言だ。気にすんな」
山本の問いに笑って答える。
唐突だが俺達は今遭難している。メンバーは俺、沢田、獄寺、山本、ディーノさん、そしてリボーンだ。そもそもどうしてこんなことになっているのか。
最初の目的はヒバリと同じ頃に入院していたらしい沢田に詫びとして、ディーノさんが俺を除くメンバーをこの山に集め、腹を割って話す場を設けようとしたことだ。次に最近俺の調子が良くないことに気付いた山本が元気付ける為に俺を誘ってくれた。そこまでは良かった。
しかしその後ディーノさんのペットのカメが巨大化し、逃げる途中に渡っていた吊り橋のロープをディーノさんが切断、そのまま落下。気付けば電波も通らぬ山奥まで来てしまっていた。
そんな中、リボーンが洞窟を見つけた。
「へーこん中なら寒さはしのげるかもしれねーな」
「うかつに近づくなよ。獰猛な生き物の巣ってこともありえる」
様子を見てくると言ったディーノさんを制したのは獄寺だった。なんでもディーノさんは部下がいないとダメダメらしい。
「何かあったら大声あげるんだぞ」
「誰が上げるかアホ」
「顔に傷は作るなよー」
「黙れ黒瀬」
全員で獄寺を見送ったその数分後、奥の方から獄寺の悲鳴と何かが近づいてくる音が聞こえてきた。それぞれ構えたが、洞窟から出てきたのは気絶した獄寺を抱えた美人だった。
彼女の名前はビアンキ、獄寺の腹違いの姉らしい。美形姉弟万歳。
そしてビアンキの後に続いて洞窟から現れたランボ、イーピン、そして美少女三浦ハル。もれなく全員遭難中だったようだ。
「沢田、その子は彼女か?美少女じゃねェか」
「いや違うから!ってかいい加減離れろよハル!」
「嫌ですー!私達どーなっちゃうんですか!?クルーソーですか!?ロビンソンですか!?」
「落ち着けよ、三浦。泣いてちゃ可愛い顔が台無しだぞ?」
「はひ!?」
「(黒瀬君、顔は良いからなー…)」
最近沢田に呆れたような目で見られる機会が多い気がする。
俺達が騒いでいる一方で、山本が木の枝を拾い集めていた。
「木を燃やそーと思ってさ。SOSののろしにもなるし、寒さ対策や動物よけになるだろ?」
「なるほど、さすが山本!!」
「んじゃ、俺達も手伝うか」
「おまえばかりにいいカッコはさせねーぜ。こいつを使えばよく燃えます」
獄寺が取り出したのは火炎ビンだった。嗚呼、嫌な予感…などと思う間もなく、ビアンキの顔を見て気絶した獄寺の手から放れた火炎ビンが山の木々に燃え移った。
「山火事イィ!!」
「火のまわりが早い!洞窟に避難するぞ!」
ところがディーノさんが指さした洞窟はランボによって爆破され、周りを火に囲まれてしまった。
「(もし今異能が使えたら…なんてな)」
下らない考えに慌てて首を振る。もう俺はポートマフィアの黒瀬悠斗ではないただの中学生なのだ。
「復活!!死ぬで消化ぁ−!!」
「!?沢田はどうしたんだ…?」
突然下着一枚になった沢田はそう叫ぶとダウンジングで水脈を掘り当てていた。沢田が殴った衝撃で地面が割れ、水が噴き出す。その水によって山火事は鎮火した。
「驚いたか?あれは死ぬ気弾だ」
「リボーン…あれお前の仕業か」
リボーン曰はく、死ぬ気弾という弾を額に撃つと死ぬ気になるらしい。よく判らんがまあマフィアにも色々事情が有るのだろう。
「やべー!逃げろ!!」
ディーノさんの切羽詰まった声に全員が振り向く。そこには噴き出した水によって再び巨大化したディーノさんのペット、エンツィオの姿があった。
俺達が発見救助されたのはもう少し後のことである。