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「#エロ」のBL小説を読む
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06



ある日の放課後、俺はいつも通り応接室に顔を出した。


「ヒバリー、来たぞー?」

「……ああ、君か」


聞こえてきた声はいつもより覇気のないもの。それに違和感を覚えて、俺はソファに座っているヒバリの顔を覗き込んだ。不機嫌そうな声で、何?と睨みつけられるが、うん…。


「お前いつもよりエロ…じゃねェや、いつもと違うなって思ったら……熱、あるだろ」

「ないよ」

「見え透いた嘘吐いてんじゃねェよ。その手に持ってる書類、上下逆だぞ」

「………」


無言で顔面に書類を叩き付けられた。理不尽。
それでも観念したのか、ヒバリは深く息を吐くとソファに沈み込んだ。顔色も良くないし、相当熱が高そうだ。


「ったく…歩けるか?家まで送る」

「いらない」

「はあ?お前熱あるのに学校に泊まる気か?」

「…悠斗の家のがここから近いでしょ」

「俺の家に泊まる気かよ…」


ヒバリは俺の意見を聞く気は無いようで、そのまま目を閉じてしまった。普段ならば泊まることなど全然構わないが、今回は別だろう。熱で赤く火照った頬、潤んだ瞳、艶めいた吐息。


「……俺が心まで中学生だったら襲ってたぞ」


溜め息を一つ零して、寝てしまったヒバリを背負う。普段トンファーを振るう姿からは想像がつかないくらい華奢なヒバリを背負って帰るのは容易な事だ。そして普段なら小さな物音でも起きるこいつだが、流石に今起きることはなかった。


***


「…ん?爆発音?」


ここは並盛中央病院。結局風邪を拗らせたヒバリは数日入院することになった為、俺は今日も見舞いに来ていた。
廊下を歩いている途中、近くで爆発音が聞こえたが俺の勘がマフィア関係だと告げている気がするので深く追求しないことにしよう。


「よ、具合はどうだヒバリ?」


入り口にプレートがかかっていない普通よりも大きめな病室。病院すらも手中に収めるヒバリに特別に宛がわれた部屋だ。その部屋のベッドの上で黒いパジャマを着て上半身を起こしているヒバリに声を掛けた。


「もう大分いいよ。明日にでも退院できるそうだ」

「そりゃ何より。……で、今日もゲームしたのかお前」

「退屈だったからね」


病室の隅に折り重なるように倒れている三人の人間。ヒバリは入院しているこの数日間、ゲームと称して自分を起こした人間を咬み殺すという退屈しのぎを行っていた。


「悠斗がもっと早く来ていれば彼らも咬み殺されないで済んだかもね」

「無茶言うな。俺はお前と違って授業があんだよ。……それにこいつら、顔が良くないから別にどうでもいい」

「君のそういうとこ嫌いじゃないよ」


そうかよ、と笑って俺はベッドの側に置いてある椅子に腰掛けた。そして持ってきた書類をヒバリに渡す。


「ほらよ、今日の分。風邪の時くらい休みゃいいのに…」


俺が渡したのは並中に関する書類だ。ヒバリは並中に関することは他人に任せたくないらしく、様々な問題を一人で請け負っている。その為、並中はヒバリがいないと機能しない状態なのだ。
少しは休めばいいという俺の意見も並中が大好きなこいつが受け入れるはずもなく、この数日は俺がその日の分の仕事を病院にまで持ち込むということになっていた。


「余り無茶はするなよ」

「僕に指図しないでくれる?」

「心配してやってんのに…。本当可愛くねェな、お前は」

「君に心配される筋合いはないよ。余計なお世話だ」

「あっそ。余計なことして悪かったな」


そこで数秒の沈黙が流れた。
ヒバリの態度よりも大人げない自分に対し、気付けば舌打ちを零していた。


「……悪い。今日はもう帰るわ」


ヒバリからの返事は当然なく、俺は苦笑を浮かべて病室を後にする。扉を閉める瞬間、ヒバリと目が合ったような気がした。