03
「チャオっす」
「ちゃ、ちゃお…?」
場所は屋上。目の前には高級そうなスーツを身に纏ったボルサリーノの子供。
何故中学に子供?という疑問の前に、こんな子供の気配に気づけなかった驚きの方が大きかった。
「…ああ、そうか。お前、ヒバリが面白いっつってた赤ん坊だな?」
「正解だぞ。ツナの家庭教師のリボーンだ」
「ツナ…沢田ね。っつーか、家庭教師って…」
「細かいことは気にすんな。それより黒瀬悠斗、お前ツナのファミリーに入らねぇか?」
「はあ?」
ファミリー?家族?何だそれと首を傾げる。その時屋上の入り口の扉が勢いよく開かれた。
「リボーン!お前黒瀬君にまで何言ってるんだよ!?」
「お前こそ何言ってんだ。こいつは間違いなく戦力になるぞ」
「そういうことじゃないだろ!?」
「お、悠斗もマフィアごっこの仲間入りか?」
「だからごっこじゃねぇっつってんだろこの野球バカ!!」
状況の掴めない俺を置いて沢田たちの会話はヒートアップしていく。山本だけずれている気がするから、彼の会話を除いて考えるとどうやら沢田はボンゴレファミリーとかいうイタリアンマフィアの10代目候補らしい。人は見かけによらないものだな。
「(それにしてもマフィア、か…)」
きっと俺の知っているものとは違うのだろう。それは判っているが余りにも昔聞きなれた単語に思わず顔を顰めた。
「黒瀬君?ごめん、リボーンが変な事言ったみたいで…」
「ん?ああ、気にしてねェよ。まあ面倒そうだからファミリーには入らねェけどな!」
「(すごい爽やかに断られたー!)」
「第一俺はおひいさんで手一杯だからな…」
「おひいさん?姫?」
「ヒバリ」
「黒瀬君ヒバリさんのことそんな風に呼んでんの!?」
「揶揄ってな。大抵咬み殺されそうになるけど」
「勇者だね…」
沢田が奇怪なものを見るような目で見てくる。後ろではあのリボーンとかいう奴がニヤリと笑ってるし。嫌な予感しかしねェよ。
俺は逃げるように沢田たちに手を振って屋上を後にした。
***
「珍しく機嫌が悪そうだね」
「あ?」
屋上を離れて廊下を歩いていると後ろから声を掛けられた。図星を突かれて思わず低い声が出る。
「…ってヒバリ!?」
「やあ、何かあったのかい?」
「…いや、何も?それよりも見回りか?俺も手伝うぞ?」
「………いらない。君っていつもそうだよね」
「ん?」
「なんでもないよ」
ヒバリはそれだけ言うと踵を返して行ってしまった。彼の後姿を見て思わず苦笑が漏れた。
あいつの言わんとすることは判っているつもりだ。それでも俺はヒバリの…子供たちの前では弱みを見せたくないんだよ。だから俺はいつだって気づかない振りををするのだ。
「ごめんな」
届かないことは判っていたが、俺は構わず小さくなってしまった学ランに向かって呟いた。