俺は自分の身に起こった事が判らずただ呆然と其の場に突っ立っていた。
左を向く。余り清潔とは言えないベッドが二つ。右を向く。矢張り余り清潔とは言えない壁に鏡が一つ。後ろを向く。どんよりとした雰囲気が伝わってくる扉が一つ。
「……え、何処だよ此処」
辺りを見渡して俺は病院の一室の様な場所に居る事は理解した。だがしかし、経緯が全く持って判らない。確か今日俺は
首領に呼ばれてポートマフィアの本部に出向いた。其の後仕事の進捗を報告して、簡単な仕事を片付けて、やれやれと本丸に通じる門を潜った、筈だった。其れが如何だ。目の前に広がるのは本丸とはとても似つかない廃病院だ。此の風景、まるで
怪奇遊戯じゃあないか。いや、本当、如何してこうなった。
「とりあえずこういう時は探索だよな」
考える事を放棄した俺は先ず此の部屋を物色する事から始めた。
そして数分後。結論から言えば何も無かった。特に此の状況を打破出来そうな目ぼしい物は見つからなかった為、俺は諦めて部屋を出ることにした。扉は少し動きが悪かったが、難なく開けることが出来た。
「………」
扉を開けてコンマ数秒、俺は叩き付ける様に扉を閉めて部屋に戻った。
………何か居た。上半身しかない女の様な奴が。目が合った。
「マジで怪奇遊戯かよ…」
何らかの異能か?正体は判らないが此れを突破しない事には別の場所に移動出来ない様だ。
「(面倒くせェな)」
懐から透明な
容器を取り出して蓋を開けた。本丸に帰るだけだと思っていたから水の入った容器は此れを入れて三本。此の場所で水が手に入るか判らない以上余り無駄遣いは出来ない。
俺は一息吐いて、乱暴に扉を蹴り飛ばした。
***
「「ぎゃあああああああ!!」」
「おい黄瀬、青峰!てめぇらうるせぇよ!轢くぞ!!」
前を走る宮地さんが振り返って怒鳴る。そんな彼の顔色も悪いけれど、正直この状況では仕方がないと思う。気が付いたらこんな気味の悪い廃病院のような場所に居て、ゾンビの様な化け物に追いかけられる。夢なら覚めてほしかったけど、さっき青峰っちに叩かれた時痛かったから夢じゃないんだろうな。
「おい黄瀬!ぼけっとしてんなよ!」
「わかってるっスよ!ていうか青峰っちさりげなく俺を一番後ろにしないで!?」
「遅いお前が悪い!」
「黙って走れねぇのかてめぇらは!!」
こんな会話をしているけど全員切羽詰まっている。最初この化け物に遭遇した時、宮地さんが出会い頭、傍に転がっていた鉄パイプであれを殴った。けれど安堵の息を吐く間もなく再生したのだ。そこから俺達は逃げている。
「っおい、前に誰かいる」
青峰っちがそう言った。この薄暗い中先頭の宮地さんよりも早く気付くなんて流石だな、なんて目を凝らすと確かに人が立っていた。背は180くらいあるかもしれない。男だった。
「あ?人か?……あーあと後ろに何か居るぞ」
「状況を考えろ!逃げてんだよ!!」
「おお…?」
この人なんでそんな冷静なんスかね。宮地さんはすれ違いざまに男の手を引くとそのまま足を進めた。
「!階段か?」
漸く突き当りまで来たらしい。上下どちらにも続く階段が見えてきた。
「おい、どっちに行くんだ!?」
「知るか!勘だ!」
「ええ!?勘ッスか!?」
宮地さん大分大雑把になってるな。と、そこで俺達の会話に今まで一切口を挟まなかった男が一言、其の前に彼奴消すか、と呟いた。
「へ、」
途端、男が取り出した透明な円柱型のケースから水が飛び出した。まるで意志を持ったように漂う水は後ろから追いかけてきている化け物の方に向かって行った。そして、
「倒したのか…?」
俺達は階段の手前で足を止めた。水によって切り刻まれた化け物は二度と動くことはなく、砂の様に消えていった。
「……処でさ、」
驚く俺達をよそに男が口を開く。
「お前等誰だよ」
今それを聞くんスかあんたは。
みたいな黒バスホラーに水明主が巻き込まれる話が読みたい。
黒バスは黄瀬と宮地さんと花宮が好きです。
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