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03



薬研に案内されて辿り着いた一室。中の様子は判らないが、微かな気配と血の臭いを感じ取ることが出来た。


「此処は?」

「この部屋は太刀の奴らの部屋だ。中に居るのは燭台切光忠と鶴丸国永」

「……太刀か」

「安心してくれ大将。この二振りはそこまで怪我は酷くない」


薬研はそう言って俺の背中を軽く叩いた。頼もしい限りだよ此奴こいつは。


「ただ大将の霊力を考えると一度に二振りはちとキツイな…。俺がどちらかを連れて来るからあんたはここで待っていてくれ」

「そりゃ有り難いが、いいのか?」

「ああ……あんた簡単にバッサリ斬られそうだしな」

「不吉なこと言うんじゃねェよ」


まあ俺に任せとけ、と薬研はからからと笑って部屋の中に消えて行った。
…俺はそんなに弱そうに見えるのだろうか。此れでもポートマフィアの准幹部なんだがなァ…。

暫くして薬研が連れてきたのは片目を眼帯で覆った色男だった。


「ホストみてェな奴だな…?」

「ほす…?そりゃ何だ?」

「いや、何でもねェ。それよりお前が燭台切光忠だな?薬研に聞いているだろうが俺は今日からこの本丸を任された者だ。まあ、よろしく」

「…………」

「無視か」


燭台切と目が合った瞬間、ふいっと目を逸らされてしまった。
随分と嫌われているな。いや、警戒されているのか。まあ、俺の仕事は新しい審神者に引き継ぐまでの間なわけで、別に仲良くなる必要はないから善いんだけど。


「…じゃ、早速手入れ部屋に行くか」


***


新しい審神者が来たんだ。燭台切、鶴丸、手入れしてもらっちゃあくれないか?
部屋に入って来た薬研君はそう言って笑った。同じ部屋に居た鶴さんがそのことについてどう思ったのかは彼の表情からは読み取れなかった。
けれど僕にはどうも信じられないよ。人間が皆あの男みたいな人だとは思っていない。長く生きてきたからそれはわかる。それでも二日前までここの主だった彼を思い出してしまうと、途端に不安になる。
僕は主に食事当番を任されていたから大きな怪我も酷い仕打ちもそこまで受けていないけれど、周りの皆が傷ついていく様を見るのは耐え難かった。特に薬研君、君は…。
僕がそんなことをぐるぐると考えている間に手入れは終わったらしい。ああ、此処から出るのが憂鬱だ。


「………へ?」

「お、大将!燭台切の手入れが終わったみたいだぜ。ほら、起きろ」

「ちょ、おい、莫迦。揺らすんじゃねェよ薬研」

「燭台切が困ってるだろ」

「酔う酔う酔う酔う」

「…え、何これどういう状況!?」


手入れ部屋の襖を開けて真っ先に目に入ったのはうつ伏せで倒れる新しい主と、そんな彼を激しく揺さぶる薬研君だった。ごめん、意味が解らないよ。


「…おう、燭台切。元気か?」

「あ、うん……。その言葉そのままそっくり君に返すよ」

「大将は元気だ、心配すんな」

「何でお前が答えてんだよ。全然元気じゃねェよ、主にお前が激しく揺さぶる所為で」


……何だか思っていたのと違う。
初めて彼を見た時、整った顔立ちと何にも興味なさげな瞳、そして冷たそうな空気を纏っている人だと思った。…うん、全然違った。あの時彼を警戒した自分がなんだか馬鹿らしくなってきちゃったなあ…。


「……如何どうした、燭台切?まだ何処か痛むか?」

「あ、ううん、大丈夫。手入れ、ありがとう」

「あ?此れも仕事の内だからな、気にすんな」

「鶴丸じゃないが、驚いただろう?大将の霊力はミジンコ以下だから手入れの度こうなっちまうらしいんだ」

「みじんこ」

「仕方ねェだろ…。俺は霊力で選ばれて此処に居るわけじゃねェんだから」


霊力ミジンコ以下とか初めて聞いたよ。それ、ほとんど霊力がないって言ってるのと同じだよね?


「あー…でも今日はこれ以上はキツイな。他の奴らの手入れは明日でも善いよな?」

「…そうだな、俺達刀はそう簡単に死にゃしねぇし、大将が倒れちまったら元も子もねぇからな」

「じゃあそういう事で。…腹も減ったし夕飯でも作るか」

「大将メシ作れんのか…?」

「おい何だ其の不審そうな目は」

「確かに主、あまり上手じゃなさそうだよね、料理」

「お前もか燭台切」


揃いも揃って何なんだお前ら、と不機嫌そうに顔を顰める新しい主に思わず笑ってしまう。


「ねえ、主。手入れのお礼に僕が作るよ、と言っても今の冷蔵庫の中身じゃ大した物作れないだろうけど」

「え、良いのか?ラッキー、正直メシ作るのとか面倒で嫌いなんだよなァ」

「「ああ、そんな感じ」」

「おい」


薬研君の頭を片手で鷲掴みにした主から逃げるように、僕は手入れ部屋から出て行く。後ろから薬研君の謝る声が聞こえてきて一瞬体が強張ったが、彼の声はどこか楽しそうだったので大丈夫だろう。
さて、冷蔵庫には何が残っていただろうか。


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