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「…俺余り人参好きじゃねェんだよな。あ、それと今日は午後から演練に参加するぞ」

「そう言いつつなんだかんだ残さないよね主。そういうところ僕は……ん?」

「お前の作るメシ何でも美味いからなァ」

「ちょちょちょちょっと待って主!今何て言った!?」

「あ?お前の作る「違うその前!」…前?俺何か言ったか?」

「鳥頭にも程がある!」


朝から元気だな光坊は、なんて呑気に考えていたが…ん?演練?主があまりにもさらっと会話に混ぜて言うものだから意味を理解するのに少し時間がかかった。俺達の本丸は主の霊力の問題で通常の本丸が行うことをほとんどやっていない。今の主が来てからもうすぐ一月が経とうとしているが出陣はおろか演練でさえ俺達は参加していなかった。燭台切に詰め寄られた主はなんだそんなことかと言いたげに自分の分の朝餉を平らげてしまうと、漸く事の顛末を口にした。
きっかけは別の本丸にいた三日月がこの本丸に来たことらしい。詳細は省かれたが簡単に言えば、三日月の本丸を襲撃した女審神者がうちに来る可能性を考慮して俺達の練度を上げておくことにこしたことはない、とのことだった。先日俺達に渡されたお守りも一つの対策なのだと主は言った。


「此の本丸も三日月を入れれば丁度六振りになるからな。必ず勝てとは言わないが経験を積んでおくには善いだろう」

「俺も参加していいのか?」

「まあ善いんじゃね?」


相変わらずの適当さだな彼は。そう溜め息を吐きたくなるも、久方ぶりに刀を振るえるとなれば俄然やる気が出てくると言うものだ。俺達の中でも特に好戦的な長谷部と薬研は早々に朝餉を胃袋に詰めてしまうと、午後に備えて鍛錬をしてくると言って大広間を後にした。


「おお、やる気だな彼奴等」

「そりゃあそうさ。俺達は刀の付喪神、戦うのが本質だ」

「それもそうか」

「でもなんで演練なの?出陣とかでも良かったんじゃない?」


加州は不思議そうに首を傾げた。確かに練度を上げるのならば演練よりも出陣の方が経験値を多く得られる。


「演練ならば例え怪我を負ったとしても戦闘終了後に自然に怪我が治る仕組みだろうが」

「あ、あー…つまり、」

「そう、詰り俺が手入れを行う必要がない!」


ぐっと拳を握る主を加州と光坊が残念なものを見る目で見つめていた。唯一三日月だけは面白い主だなあ、と呑気に笑っていた。


***


結果からして惨敗。そりゃあ当然だ。俺達は人の身体を得てからというもの碌に戦闘を経験していないのだから。


「申し訳ございません主。こうして演練に繰り出したというのに結果を出せず…」

「なんだか格好悪いとこ見せちゃったよね…」

「あ?…あーまあ気にすんなよ。最初に言っただろ、勝ち負けに拘る必要はねェと」


これは俺達を鍛え、すとれすというものを発散させるためなのだと彼は言った。だから勝てばそれでよし、負けてもそれはそれで咎めはしない。実際に主は今、落ち込んでいる奴ら(主に長谷部と光坊)の肩を叩いて笑いかけている。それを見た加州が俺も俺も、と主の腰に抱きついていた。今、主の口から蛙の潰れたような声が漏れたが大丈夫か。


「…やはり面白いな、あの主は」

「きみのいた本丸の主は面白くなかったか」

「はっはっはっ……まあお世辞にも面白かったとは言えんな」

「そうか……。似たようなものだな俺達も」


三日月と並んで主を見つめる。俺達刀は主を選べない。だからこそ俺達の在り方主によって左右される。


「薬研ー、お前先刻からだんまりだが、如何した?」

「……いや、なんでもないさ」


薬研が彼を覗き込む主に向かって笑いかける。そう言えばさっきから薬研は黙ってどこかを見ていたな、と薬研が視線を向けていた先を確かめた。
……ああ、なるほど。彼の見ていた先には演練に参加していた粟田口の短刀達がいた。主も気付いたのだろう。


「薬研お前…」

「……ああ、悪いな大将。ちと考え事だ、気にすん「それは俺への当て付けか!?」

「おい、どうしてそうなった」

「確かに俺は霊力が底辺過ぎて他の刀を顕現させることは出来ないが…」

「疲れてんのか?」


何だあの会話。
その後もぐちぐちと呟く主を薬研は一所懸命宥めていた。彼、今日はやけに卑屈だなと思ったが、あれは薬研の意識を他の本丸の刀達に向けさせないようにする為なのだろうか。………いや、考え過ぎだな。うん。
結局全員係りで主を慰め終える頃には、薬研はいつもと変わらない笑みを浮かべて楽しそうにしていた。さあ帰ろうか、と言う光坊の一声で皆演練場を後にする。
一番後ろについた俺はふと、俺の前に居た主と目が合った。


「(……食えない奴だなあ)」


主は人差し指を口に当ててフッと笑った。どうやら俺の考え過ぎというわけではなかったようだ。


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