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却説さて、腹も膨れた処で大事な話をする。……此れからの事に就いてだ」


俺が居住まいを正して顔を上げると、刀剣達は真剣な眼差しを此方へ向けていた。


「先ず通常本丸で行われている出陣、遠征、新たな刀の鍛刀は原則として俺が行うことは禁止とされている」

「それは何故です…?」


一等疾く反応したのは長谷部だった。其の端正な顔は珍しく怪訝そうで眉間に皺も寄っていた。…いや、此奴は俺にそういった表情を見せないだけで此れが通常なのだろう。


「…一つは政府からの命令、だな。もう一つは…あー……うん、俺の霊力の問題」


そう言って周りを見渡せば、全員があー…、と言葉を零して憐れんだような視線を此方へ送っていた。
止めろ、此方が居た堪れない。


「兎に角!俺の仕事は此の本丸を通常の本丸と同等の状態にする事だ。其処で此れから本丸内の清掃及び畑仕事を中心に行う」


此処に来て今日で三日目となるが、掃除を行ったのは初日のみで、しかも俺の部屋と厨房と厠、風呂場など生活するのに最低限必要な場所のみだ。つまり此の広い本丸の半分以上は未だ手付かずの状態な訳である。
そして今有る食材は安吾から届けて貰ったものであるが、本丸で必要な物は自給自足、亦は万屋での購入が原則。其処で全員の手入れが終わった今、俺が最優先しなければならないのは本丸内の清掃と荒れに荒れ果てた畑を再生させる事という訳だ。


「此の後早速本丸の掃除から始めるから各自動きやすい服に着替えて此処に集まってくれ。んじゃ解散」


***


鍬を地面に突き立てて其れを支えに俺は息を吐いた。


「流石に本丸全体の掃除の後に畑仕事は中々に辛いもんだな…」


今は昼食を食べ終え、全員で全く手を付けられていなかった畑を耕している処だった。午前中は調子の悪そうにしていた燭台切と加州も大分動けるようになったらしく、文句を言いつつも(主に加州が汚れるだのなんだのぶつくさ言っていた)しっかり働いてくれている。


「主までこのようなことしなくても良かったのですよ…?」

「んー…まあそうなんだがなァ…。俺は書類と睨めっこしているより体を動かしていた方が好きなんだよ」

「………主、書類の期限は」

「…………」

「主」


完全に失言だった。長谷部の訴えるような視線から逃れるように俺は薬研と燭台切の居る方へと足を進めた。書類の提出期限は今日の夜までだから未だ大丈夫だ。多分。後でやるから。多分。


「期限はちゃんと守れよ、大将」

「げ、聞かれてた」


思わず顔を顰めると二人が呆れたように溜め息を零した。未だ出会って三日目だというのに本当お前ら容赦無くなってきたな。


「あ、そう言えば気になってたんだけど…主って畑作業の経験あるの?」

「いや?此の農具を持つのすら人生初だが?」

「その割には慣れているというか軽々持つなって思ってね」

「確かにな。俺達は刀を扱うからこれくらい大したことないが…。大将も刀を扱ったりするのか?」

「刀なァ…。扱えないこともないが俺は殴ったり蹴ったりする方が単純で好きだな」

「「ああ、そんな感じ」」

「こんな遣り取り前にもやったな。腹立つ」


抑々そもそも戦う時はほぼ異能を扱うことが多いから武器とかは余り持たない。若しもの時用に短刀ナイフと拳銃を懐に忍ばせている程度だ。
俺達がそんな話をしていたのが気になったのか、鶴丸と加州が自分の耕していた場所を放り出して此方へ来た。其れを見ていた長谷部は二人を注意しようとしたのか一瞬口を開きかけたが、俺と目が合ったことでそっと言葉を飲み込んでいた。そして俺から目を逸らして一人作業を開始しようとする長谷部を見て、俺は休憩を提案したのだった。


「さっき薬研たちとの会話聞いてたんだけどさー、主って戦えるの?」

「んー…人並みに体術は心得てる心算つもりだが、お前等付喪神と比べると如何だろうなァ…」


縁側に全員で一列に腰掛けて一息吐いた後、隣に座っていた加州の問いに俺は燭台切の入れてくれた緑茶を啜りながら曖昧に答えた。
戦えると言っても其れは飽く迄俺の居る世界では、という話だ。異能力を扱う身として、ポートマフィアの准幹部として、俺はあの世界で負ける心算は毛頭無い。しかし此の場所は俺の居た場所とは全く異なる環境な訳であって、刀を扱う刀剣男士と同じ条件つまり剣術のみを見て戦えるのかと言われると返答に困る。刀を扱えないこともないが、其れでも永く刀と共に在り続けてきた付喪神には敵わないだろう。


「今度手合せでもしてみるか?きみと遣り合うのは楽しめそうだ」


鶴丸がにやりと笑った。俺は其れに気が向いたらな、と返す。
鶴丸の提案も悪くはないが、久し振りに手加減など一切必要としない異能力者同士の戦いをしたいものだ、と心の中で一人ごちた。


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