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「……朝からどっと疲れた」

「自業自得だろ」

「だからあれは悪かったって…。何で他の奴らに言うんだよ長谷部ー…」

「も、申し訳ございません主!その…昨日の記憶が曖昧で…」

「長谷部のせいじゃねぇから気にすんなって。全部大将が悪い」

先刻さっきから薬研俺に厳しいな…」

「自業自得だろ」

「はい…」


朝、布団の中で気持ち善く眠っていた俺は突然やって来た薬研と鶴丸に布団を引っぺがされ強制的に起こされた。そして胡散臭い笑みを浮かべた二人に昨日長谷部が泣いた件について詳しく説明しろと迫られたのだった。
今は二日酔いで動けない燭台切の代わりに俺と薬研と長谷部で朝飯を作っている処だ。ちなみに鶴丸は俺に質問攻めするだけしておいて早々に何処かへ行った。彼奴自由過ぎるだろ。


「主、味噌汁が煮えましたよ。どうですか?」

「どれ……お、美味い。お前料理はしたことないっつってたのに全然出来るじゃないか」

「いえ、このくらい…。主命とあらば料理だってこなしてみせますよ」


遠慮がちに微笑む長谷部。他の奴らも長谷部を見習うべきだと思う。


「長谷部は今の処唯一の俺の癒しだな…」

「大将、俺は?」

「お前は駄目だ」

「俺は駄目か」


見た目だけならまあ可愛らしいと思えるが、俺を引き摺って運ぼうとしたり布団から強制的に引き摺り下ろしたりする奴を俺は癒しとは認めない。


「…にしても大将、本当に料理できたんだな」

「疑ってたのかよ」

「まあな」


薬研が鮭を焼いている俺を見て言った。
此れでも一人暮らしだから最低限の料理はしている。燭台切みたいに凝ったものは作れないが。


「薬研は出来ないわけじゃなさそうだが矢っ張り豪快だな…」

「そうか?」


昨日の昼にも思ったが薬研は其の性格に比例して、何事も豪快だ。悪く言えば大雑把。今も握り飯を作るよう頼んだが、一つ一つが大きい。俺は朝飯はあまり量を食べないから正直言うと其の半分程の大きさで充分だ。作って貰っている手前文句は言わねェけど。


却説さて、そろそろ此方も出来るから長谷部は味噌汁よそってくれ」

「はい」

「薬研は先に握り飯を運んでおいてくれ」

「任せろ」


薬研は握り飯の乗った大きめの皿を持って厨から出て行った。俺と長谷部も薬研の後に続くように鮭と味噌汁を大広間まで運ぶ。


「おーい、朝飯出来たぞ…ってうわ」


大広間を覗いた俺は思わずそう零した。燭台切と加州が死んでる。


「……おはよう、主。朝餉の準備任せちゃってごめんね…」

「主ぃー…気持ち悪いー…」

「見事な二日酔いだな二人共」


メシ食えるか?と問うと二人して飲み物だけでいいと言われた。薬研や鶴丸、長谷部の方が飲んでいたのに如何やら三人は翌日まで残らないようだ。斯く言う俺も滅多に残らないし抑々そもそも酔うこと自体余りないが。


「今日は全員でやりたいことがあったんだが此の調子じゃ二人は無理かもなァ…」

「やりたいこととは何だ?」

「如何してお前はそう唐突に現れるんだよ、鶴丸」


俺の隣に立って顔を覗き込むのは先刻まで此の部屋に居なかった鶴丸だった。前から思っていたが此奴は態と気配を消して近づいてきているな。


「そう言うわりに驚かないよな、きみは」

「此れでも驚いてる」

「嘘だ!今だって何のりあくしょんもなかったぞ!?」

「表情に出ないだけだ」

「ぽーかーふぇいすというやつだな!?」


鶴丸は何百年も昔の刀なのによく片仮名を使用する。発音は未だ拙い気がするが何処で覚えてくるのだろうか。


「…で、やりたいことって結局何なんだ?」

「其れは追々話すとして先ずはメシ食おうぜ。腹減った……って薬研もう食ってるし!」

「悪ぃ大将。我慢できなかった」

「自由だなお前」

「じゃあ俺らも食べるか」

「そうだな。長谷部、お前もそんな処に居ないで此方来いよ」

「主命とあらば」

「主命じゃねェんだけどな、まあ善いや」


隣同士で机に突っ伏す加州と燭台切の正面に薬研と俺が座り、俺の隣には長谷部が、燭台切の隣には鶴丸が座った。
斯うして食卓を囲んでいると一つの家族の様だ、と柄にもなくそう思った。


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