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「…どう、かな?俺可愛くなったかな………って、えー…何これ」


これが手入れ部屋から出て俺が放った最初の一言。


「主!?しっかりしてください主!!」

「さすがに二度目だと慣れてくるもんだなあ」

「相変わらず見事な倒れっぷりだよな、大将は」

「なんかもう笑い飛ばせるよね。だから長谷部君落ち着いて」


うつ伏せに倒れている新しく来たという審神者を取り囲むように四振りは騒いでいる。
その人大丈夫?さっきから動かないよ?と言いたいけれど、長谷部以外全く彼を心配する様子はない。ていうか俺が手入れ部屋から出てきたのに誰も気付かないってどういうこと。


「あ!加州君!手入れ終わったんだね、よかったー」

「うん、少し前に終わってたけどね。…あと、その人、」

「ああ、主ね。彼、霊力がみじんこ以下らしくて手入れの後は必ずこうなっちゃうみたいなんだ」

「みじんこ」

「うん、ちょっと待ってて」


燭台切はそう言って笑うと、未だに動かない主をがくがくと揺さぶり始めた。長谷部が貴様、主に何をする!とか叫んでるけど燭台切はそれを軽く受け流して主、主、と呼びかける。


「主、起きて。加州君の手入れが終わったよ」

「……薬研といい燭台切といい何で揺らすんだよ。此方は顔上げる気力もねェってのに…」


燭台切に促されて呻き声を挙げながら彼は徐に顔を上げた。その整った顔が露わになって、そして彼の目が俺を捉えて細められる。


「具合は如何だ?加州」

「あ、うん、平気…」

「そりゃ重畳…ってことで俺は寝ても善いか?」

「「「えー…」」」

「其処三人。何が不満か言ってみろ、あ?」


主の発言に不満そうな声を漏らす薬研、燭台切、鶴丸の三振りを主が睨みつけた。ガラ悪いなこの人。


「おい、貴様ら。主はお疲れなのだから不平を言うな」

「俺を気遣ってくれるのは長谷部だけだよ…」


長谷部は恭しく主を起こす。主にお礼を言われる長谷部は今までに見たことがないくらい嬉しそうだった。


「あ、あのさあ!」


そんな長谷部の様子を見て俺は思わず主に声を掛けた。本当は手入れ部屋を出てすぐに聞きたいことがあったのだ。
壁に寄りかかった主は、如何した?と首を傾げて俺を見た。


「俺さ、」

「うん」

「か、可愛くなった、かな…?」


俺の問いに主はぽかんとした表情でしばらく俺を見つめた後、嗚呼、と納得したように一言呟いた。


「そういやあ手入れ前もそんなこと言ってたなァ、お前」

「それで!?どう!?」

「如何って…そりゃ可愛いんじゃねェの?」

「……さっきもそうだったけどなんか適当じゃない?」

「そう言われてもな…」


うーん、と腕を組む主。その口から出てくるのは言葉にはなりきれない声ばかりで、彼は何を言おうか迷っているようだった。


「…手入れ前のお前を見た時、お前自身はぼろぼろで可愛くないと言っていたが俺はそんな事ねェなって思ってたからなァ」

「……え?」

「だからな、其の状態の加州を見ても可愛いと思ったんだから手入れ後のお前を見て可愛いと思うのは当たり前だろう?」


目の前の主はそんなことをさも当然のように言う。言っとくけど疾しい意味はないからな、と一言付け加えて。


「俺、可愛い?」

「あ?だから先刻さっきからそうだと何度も言ってるじゃねェかって…ええええ!?」


俺の様子を見て気だるそうな目を見開いた主。
それもそうか。俺、今絶対酷い顔してるもんなあ…。


「か、加州!?え、おま、ちょ、」

「泣かせた」

「泣かせたな」

「泣かせたねえ」


薬研に続き鶴丸、燭台切がじとりと主を見る。


「は、長谷部…」

「…………」

「マジか」


縋るように主は長谷部を見るが、長谷部は珍しく気まずそうにそっと主から視線を逸らした。
四振りから援護は得られないと判断したのか、主は姿勢を正して俺に向き直った。


「あー…加州、えっと、御免な?泣かせる心算つもりはなかったんだ…いや、本当に」

「………ねえ、主」

「何だ…?」

「俺、可愛い?」


もう一度、同じ質問を繰り返す。主は驚いたように俺を見た後、ふっと表情を緩めた。


「嗚呼、可愛いよ」


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