「どこから…私は○○町から」


アリスがそう言うとエミリアは首を振り否定をする。


「いいえアリス。この国にはそんな町はない。存在しませんわ」

「存在しない?」

「ここは色の国。住人一人一人が色を課せられている不思議な国。意味がわからないと言う顔をしてますわね。無理もありません。何故なら貴方はこの国、この世界の住人じゃない異世界人だから」

「…」


頭が痛い。
今自分がいるこの場所は元居た世界とは違うのだとエミリアが言うのだ。

でもそう言われて納得した事もあった。
見たことない人や物。
どれもこれも自分の世界には存在しないようなものだった。
なのにその事を忘れ受け入れていた。


「私は何で今まで違和感を覚えなかったの?それにどうやってこの国まで来たの?」

次々と沸き上がる疑問。

困惑するアリスを落ち着かせエミリアは。


「それは今から解明していきましょう。アリス貴方はこの城に来る前はどこに居たのかしら?」

「森です。そこでチェシャくんに会いました」

「そう猫に。ではその前は?森にいる前はどこに?」

「どこに?わからない…気付いたらあそこに」

「アリス」


また混乱しそうになるアリスにビットは声をかけ近づいてくる。
不安そうな表情をする彼女を安心させるように笑ってやる。


「無理矢理思い出そうとすると尚更思い出せない。だから君が断片的に覚えている事を。それが鍵となる」

「ビットくん…うん。やってみるわ」


ふうと息を吸い目を閉じる。

断片的な記憶。
確か夢の様な物を見た気がする。
あまり現実味のない幻想的な夢だった。

色とりどりの市松模様の壁。
トランプ。ティーセット。
それを見ながら下へ落ちていく自分。



夢以外にこの光景を見たことがある?
なんだっけ、絵を見たんだっけ。
本の挿し絵で。
古びた本を見たんだ、閉ざされた部屋で、図書館で。

そうだ、そうだ!


「…思い出した。全部全部。私あの日ーーー」






ーーーあの日、アリスは学校の帰り道を走ってある場所へと向かっていた。

それはアリスの町にある古い図書館。

小難しいことばかり書かれてる本はあまり好きではなかったが色々な物語が書かれてある本は好きだった。

今では顔馴染みになった館長に軽く挨拶をして館内へと足を運んで行く。
いつも通りにお気に入りのお伽噺話の本の棚へと向かう途中にアリスは気づいた。

いつもは厳重に鍵が閉められている開かずの部屋が開いていることに。


「あれ?開いてる。珍しい」


興味本意でひょこっと中を見る。

以前館長から聞いたことがある。この部屋には古い文献や書物等一般公開していない本を置いてある部屋だという事を。

中の本の整理か搬出でもしていたのだろうか?


「…館長さんごめんなさい」


何かを思い付いた顔をしたアリスはそう呟き開かずの部屋の中へと入っていく。
バタンと扉を閉めると中は年季の入っている様々な種類の本が棚へと敷き詰められていた。
足下には棚に入らなかったのであろう本が乱雑に置かれている。


「さすが普段から開けられてないから部屋の埃がすごい…ここにもお伽噺話の本あるかしら?」


滅多に入れない部屋の本だ。珍しい物があるに違いない。

キョロキョロと部屋の中を見ながら足を進めた時、何かにつまずいた。


「え」


バサッバサバサッ

次に聞こえたのは本が倒れ落ちていく音。
どうやら床で高く積まれていた本に足を引っ掻けてしまったようだ。
倒れた本達が派手に散らばっていてアリスは「あちゃーやっちゃった」と呟き頬をかく。


「大事な書物とかあるから気を付けないと。破ったりしたら館長さんのカミナリが落ちちゃう」


一度こっぴどく館長に怒られたことがあるようでアリスは体を震わせた。
凄く怖かった。もう勘弁したい。

一つ一つ本を拾い集めていくとある本に釘付けになる。


「これ…」


それは茶色の表紙の一冊の本。

パラッとページをめくっていくと挿し絵の入っているページで止まる。
色とりどりの色で描かれている挿し絵。

アリスは目を奪われた。


「綺麗な絵。素敵こんな本初めて見たわ」


そしてまためくっていき本の真ん中のページを開いたその瞬間。


「!」


突然光った本。

あまりにも眩しくて思わずアリスは目を瞑る。本が光るなんて有り得ない事に混乱しながら次に目を開けたらあの挿し絵と同じ市松模様の壁の場所にいて。

そしてまた気づいた時にはあの森にいたのだった。


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