謁見の間へと繋がる長い廊下。
「なんか怪しいな」
ポツリとダイヤは呟いた。
隣を歩いていたロウはその呟きに気付き声を潜めて話し掛ける。
「何がなんだ?」
「エミリア卿だよ。基本的に女王って滅多な事じゃ一般人と会わないじゃん」
「確かに」
「なのにエミリア卿はアリスに会うって言うんだよ?おかしいって」
先程と同様に上機嫌に目の前を歩くアリスの背中を見つめダイヤは言った。
宙を浮いて移動していたメアリーも二人に寄ってくる。
「つまり女王さんがなんか企んでるちゅーことなん?」
「じゃないかな。ってかメアリー聞いてたの?」
「流石だな(地獄耳か?)」
「フフン。ウチを誰やと思っとるん」
得意気にメアリーは胸を張る。
ダイヤは驚き、ロウは心の中で若干失礼な感想を述べていた。
人よりも聴力がいい獣人であるチェシャにもダイヤ達の会話が聞こえてたようで、腕を頭の上で組み
「アイツの考えはよくわかんねえよ。今も昔も」
そう呟いた。
*****
謁見の間の扉の前にたどりつく。周りは緊張した空気が漂っていた。
アリスは深呼吸をして前を向き扉を開けた。
中に入るとカーペットがひかれていてそれを挟むようにトランプ兵が並んでいる。
その中にはタクトも居て一番前で並んでいた。
カーペットのその先には玉座があり一人の女性が座っている。
頭には王冠、ストライプ柄のドレスに身を包み優雅に腰かけるその姿は見とれるほどの美しさが溢れていた。
「もしかして女王さま?」
アリスの言葉にビットは頷き前へ進むよう促す。ある程度まで進み歩みを止めると女王、エミリアは立ち上がりドレスの裾を掴み挨拶をした。
「はじめまして。ワタクシはエミリア=クインズ。この国のハートの女王ですわ。以後お見知りおきを可愛いお嬢さん」
微笑みを浮かべたエミリアの表情にアリスはハートを撃ち抜かれた。
想像以上の美しい女王に震える。
ここまで来たかいがあった!!!
「あっわっ私、アリスと申します!よろしくお願いいたします!」
「フフッ。そう緊張しないで楽になさって?貴方達もお久しぶりね。帽子屋兄妹、夢魔、そして猫」
エミリアは四人の方を向きニコリと微笑む。ダイヤ達は会釈や挨拶をするがチェシャだけは複雑な表情をしている。
「さて挨拶も済みましたし早速ですがアリス。貴方の正体を暴いてみましょうか?」
「え?」
正体を暴く?
どういう意味だ。
アリスは目を見開いた。
「えっと…女王さま?どういう意味ですか?」
もう一度聞き返すとエミリアはふうと息を付くと首を傾げて
「だから貴方の正体を暴く、そのままの意味ですのよ?タクト」
「はっ。トランプ兵!そこの娘を捕らえ地下裁判所へ連行しろ!」
「「「イエッサー!」」」
「きゃっ!?やだっ!離して!!」
整列していたトランプ兵達がタクトの命令を受け一斉にアリスを捕らえて連行して行く。
それを見ていたダイヤ達は血相を変えてエミリア達に詰め寄った。
「ちょっとエミリア卿何してんの!?アリスをどうする気だ!?」
「確かにちょっと冗談が過ぎるんちゃうの?」
「そうかしら?貴方達はワタクシに彼女の帰る町を聞きに来られたのでしょう?」
「何でそれをエミリア女王が知っているんだ?」
「あら黄緑の帽子屋お忘れかしら。ワタクシに使えるトランプ兵達は優秀ですのよ?」
「トランプ兵の暗部、情報聴取部隊か」
チェシャの答えにエミリアは頷く。
そして今度は先程の微笑みとは違うニタリと怪しげに笑った。
「ええ。貴方達のここまで来る間の事は全て聞かせて頂きましたわ。だけどごめんなさい。彼女の町の名前はワタクシも知らない」
「そんなエミリア卿も?」
「寧ろこの国の民は皆知らないでしょう。この国にはそんな町は存在しないのだから」
「!?それってどういう」
「彼女は、アリスはこの世界の住人ではない」