「そう来客なの。ワタクシに」
「ああ。部下の話じゃ如何にも怪しい娘らしい。あと帽子屋達も来てるみたいだ」

部屋に響く男女の声。
女は明るい桃色のツインテールを揺らし、男は己の黒髪をかきあげながら溜め息を吐いた。

「何でこうもまた厄介事ばかり来るんだ」
「あらあら幸せが逃げちゃいますわよ?所でその娘の写真はあるかしら」
「さっき現像したばかりだ」
「この娘…」

写真を受け取ると目を細める。そしてフフッと笑うと

「ワタクシこの娘と会いたいですわ。謁見の間に通してちょうだい」
「本気か…?全くしょうがないな。但しもしもお前に害を及ぼすのなら容赦なく斬り捨てるぞ。エミリア」
「フフッありがとうタクト」

*****

「女王さまってどんな人だろう?スッゴく美人だよね?だって女王さまなんだもん。うふふふ」

上機嫌に笑いながらアリスはハートの女王の城の中を進んでいく。
ビットは横目で彼女を見ながら「一般人が易々と入る場所では無いのですが」とそう言おうとしたが後ろでついてきている四人も言えることだったと今更ながら気づいた。

僕としたことが雰囲気に流されてしまった。

(女王に見つかれば大変な事になりそうですね。あ、後あの人にも)
「ビット!」

ビットが考えをまとめていると急に黒い軍服を纏っている男に呼び止められる。
その男を見てビットはビクリと身体を震わせた。

「タクトさん(なんでよりにもよって!今日は何て運がない日なんですか!)」
「何でそんな嫌そうな顔なんだ、お前は」
「ビットくんの知り合い?」
「あっ隊長じゃん」
「隊長?」

ダイヤの隊長と言う呼び名にアリスもおうむ返しをする。

男の名前はタクト。
ハートの女王に使えるスペードのジャックであり、またトランプ兵団の隊長である。
この城の警備の責任者はもちろん彼な訳で。
だからビットはタクトに会うのは避けたかったのだ。

「(これはもう言い逃れは出来ない!ならばいっそ謝り倒すしか!)申し訳ありません!」

ばっと勢いよく頭を下げるビットにタクトは驚く。アリスやダイヤ達も何事かと見ている。

「タクトさん申し訳ありません!一般人を城内の中へ易々と入れてしまい!それもこれも全て僕の責任…!」
「ビットとりあえず落ち着いてくれ。その事なんだが女王からのお達しだ。そこのじゃじゃ馬娘と会いたいらしい。謁見の間に通してやれ」

今度はビットが目を見開き驚いた。
じゃじゃ馬って私のこと?とアリスはダイヤに聞いている。

「本当ですか!?しかし何故」
「さあな。女王なりに考えがあるんだろう。他の奴等は…好きにしろ。付いてくるなと言っても来るんだろう」
「「「「もちろん」」」」
「即答か」

予想通りの返事にタクトは胃がキリキリ痛むのを感じた。
普段から部下のトランプ兵達に振り回されてる為タクトは最近胃薬が手放せなくなったらしい。

その様子を見てビットは察し今度胃薬を持っていこうと心の中で決めたのだった。

「ビットあとは頼んだぞ。俺は先に謁見の間に行く」
「分かりました」

そう告げるとタクトはその場から立ち去っていった。
ビットは改めて気を引き締めてアリス達の方へと振り向いた。

「では皆さん謁見の間へご案内しますので僕の後をついてきて下さい」
「ビットくん」
「何ですかアリス」
「女王さまは私に会いたいって言ってくれたのよね?」
「…タクトさんの言い方ではそうですね」
「女王さまが会ってくれるなんて!ついてる!私今凄くついてるわ!さあビットくん早く案内してちょうだい!」

またビットの腕をガッと掴み歩き出すアリスにビットは叫んだ。

「だから!引っ張るのは遠慮願いたい!」

だが有頂天の彼女には聞こえてはいない様だった。


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