殴られ吹っ飛んだサラとスペンドは倒れる。
立ち上がろうと身体を起こそうとするが脳が揺れたせいもあり全く身体の制御が出来ない。
正直意識を保つのも厳しい様で。
「こんなとこでぇ…!」
「倒れるわけにゃいかねえ…!」
絞り出すように言う二人の傍にダイヤは近寄ると座り込む。ロウも同様に腰を下ろした。
なんだと目で訴えるとダイヤは眉を下げながら話した。
「ねえ、また昔みたいに戻れないかな」
その提案にサラとスペンドは目を見開いた。ロウは驚いた様子無くただ穏やかにこちらを見ている。
「バカだろお前…!」
「アンタ…正気なの?!今更、戻れるわけ、」
「ボクはまた昔みたいに皆でお茶会がしたいよ」
「家の方にも女王にも話をつけてる。心配すること無い。今度は遠慮しないでお前達に接する。すぐには戻れないかもしれない、けどまた昔みたいに四人でお茶しよう」
「だから。ね、帰ろう?…サラ姉、スペン兄」
眩しかったダイヤとロウの笑顔が。
こんなにひた向きに真っ直ぐに自分達の事を思ってくれる従妹と従兄に、
かなわないと思ってしまった。
「ぷっ…アンタ達バカよ、本当にバカ………わかったわよ」
「え、」
「…今回は負けてあげる」
「認めたくねえけど…オレもだ。身体もう動かねえし、めんどくせぇ…」
「二人共」
「…ただ、顔を殴られるなんて最悪だわ…覚えてなさいよぉ…」
「…オレも次は負けねぇ…!」
サラとスペンドは悪態を付きながらそう最後に言い残しそのまま意識を手放した。
ボロボロだがスッキリしたような顔で眠る二人を見つめるダイヤにロウは声をかけてやる。
「また戻れるさ」
「うん。ボク信じてるよ。…ボロボロだね」
「それはお互い様だな。二人はここで寝かせて大丈夫だろう。後はカラーレスだ」
「皆の所行こう!」
立ち上がり戦っている三人の元に急ぐように走り出したダイヤに後ろから追いかけて走るロウはふとあることが頭をよぎる。
「なあダイヤ」
「ん?」
「サラ達を呼んだふうに俺も昔みたいにロウ兄って、」
「言わないから。ほらさっさと行くぞ」
「…ハイ」
冷めた声でバッサリと切ったダイヤの言葉にロウは落ち込んだ。
俺だけお預けとか泣ける、と後ろから聞こえてきた様な気がするが無視をする。
「お待たせ!」
「ダイヤちゃん!ロウくん!」
メアリー達は包帯人形に苦戦しているようで三人固まって戦っていた。
アリスに襲いかかっていた包帯人形にダイヤは蹴りを入れ邪魔がいなくなったのを確認して合流する。
「アンタら終わったんやな」
「ああ。そっちはどうだ?」
ロウは状況を聞くがあまり著しくない。
「どーもこーもコイツらキリねぇ!いくら倒してもドンドンわいて出やがる!」
「こりゃ持久戦になりそうやな」
「こうなったらカラーレスやるぞ!行けダイヤぁ!」
「ボク!?」
痺れを切らしたチェシャが叫ぶとダイヤはぎょっとする。
続けてチェシャは捲し立てる。
「お前が言い出したんだろ!アイツ何とかしてやりたいんだろ!」
「そうだけど、どうやって!」
「ダイヤちゃん!首のチョーカーの宝石よ!」
「宝石?」
「そうや!カラーレスと初めてあった日アイツはそこに住人の色を入れとった、多分あそこに色を溜めとる!そこを狙うんや!」
「…確かにこの中で一番スピードがある武器を持ってるのはお前だ。大丈夫ちゃんと援護してやるから、行けっダイヤ!」
チェシャ、アリス、メアリー、ロウに背中を押される。
「…わかった!」
銃を握り締め少し俯きすぐに顔を上げたダイヤはカラーレスへと走り出した。
包帯人形が邪魔をしようと襲ってくるがロウとチェシャに防がれる。
カラーレスから出てきた無数の包帯が刃となりダイヤに飛んでくる、がメアリーの幻術とアリスのトランプで弾かれる。
だが防ぎ切れなかった数本はダイヤの肩や足をかすめて傷をつけた。
「痛ッ!」
ダイヤの視線の先、カラーレスは苦しそうに唸ったまま頭を抱えている。
ちらりと首のチョーカーが見えたが射程範囲にはまだ入らない。
止まらないカラーレスの攻撃。
痛い、怖い。
でも走るのを止めない。
止まってしまったらもうそこまでなんだ。
カラーレスを救うことなんて出来ない。
(射程範囲に入った!ここからなら!)
走りながら銃を構え狙いを定めて引き金に指をかける。
その瞬間頭に響き渡る声。
ハンプティ・ダンプティが塀に座った。
ハンプティ・ダンプティが落っこちた。
王様の馬と家来の全部がかかっても、
ハンプティを元に戻せなかった。
誰も彼を戻せない。
そんなこと無い!
「まだ間に合うから!戻ってこいよ!!カラーレス!!」
引き金を引く。
銃弾が発砲され真っ直ぐにカラーレスのチョーカーに飛んでいき
パキィイイン!
宝石を砕いた。
目の前が真っ白になった。
そして奪われていた色たちが空高く飛んでいき弾け、カラーレスの包帯人形も飛んできた包帯もバラバラになって消えた。
「…っあ、ワタシ、私は」
何が起こったのかわからなかった。
破裂音の後にあんなに酷かった頭痛が止まった。
自分の中から何かが出ていったようで。
それと同時に
全て思い出した。