飛び交う弾丸。
しなる鞭。
激突し合う拳とナイフ。
それぞれ戦う姿をメアリー達は見つめる。
彼等は加勢しようと動く気配はない。ダイヤとロウの二人と約束していた。
手出し無用と。
「ウチらはカラーレスでも叩く?」
それでも手持ちぶさたなのかメアリーが口を開いた。
「そうだな…っとそうはいかないみたいだな」
いつの間にか周りに現れた包帯人形にチェシャは歯を見せて笑う。
「またコイツらかよ。芸がねぇな」
「今回は随分余裕そうねチェシャくん。前は苦労してたけど」
「それを言うな、それを。メアリーにアリス。サポート頼んだぜ!」
「了解や」
「任せて!」
***
「あはははっ!少しはやるようになったじゃなあい!」
「まだまだやれるよ!ねえサラ」
「何よぉ?」
「本当の事聞かせて。ボクの事どう思ってる?」
ピタリと動きを止めたサラにダイヤも動きを止める。
実はアリスから彼女がサラと偶然あった日の事を聞いていた。
アリスからの問いに揺れたサラの事も。
「またそれなの…。まあ、あの子とあったあの日から私なりに考えたわよ。認めたくないけど確かに好きだった楽しかった時もあったわぁ」
「!」
「でもね同時にアンタの存在が恨めしくなって。あの言葉を聞いてからもっと気持ちが強くなったわぁ」
あれは数年前、アンタの事件が発生するより前の事よ。
ーーー数年前ハートの帽子屋本家。
(今日は先生に誉められたわぁ!やっぱり私は従兄妹の中で一番よぉ!パパとママにも報告しなくちゃ!)
長い廊下をパタパタと走りながらサラは両親の元へと急いでいた。
一番でいれば両親は誉めてくれる、それが何より嬉しかった。
「…だろ」
「…?」
両親の部屋の前までつき中に入ろうとするが話し声に気づき手を止める。
声を潜めたような喋り方にサラは不思議に思い小さく扉の隙間を開けて中を覗いた。
そこには両親の姿。
「どうだった昨日の夜会は」
「ええ、今日はダイヤとクローバーの後継ぎ達も来ていましたよ」
「そうか。やはり流石は原色持ちと言ったところか。特にダイヤの後継ぎはあの歳だ。原色を持つ者は重鎮達からも良く見えるだろう。これは仕方ないことだが…サラも原色を持ってたらな…」
「え…?」
耳を疑った。
自分が原色持ちなら。
それはサラにとってはコンプレックスだった。
ダイヤとロウと違い自分はただの色。
でも課せられなかったものはしょうがないと違う面で頑張ってきたのに。
…大好きだった両親からその言葉は聞きたくなかった。
ギリッと歯を噛み締めるとその場から離れる。
嫌い。嫌いだ。
私より勝っている、
「アンタなんていなかったらよかったのに!!!」
「っ!?」
「アンタなんて嫌い!嫌い嫌い嫌い!私より勝っているアンタなんて!アンタが原色を課せられている時点でただの色を課せられている私なんかよりアンタ達の方が特別に見られてるのよぉ!ママもパパもアンタ達の事ばっかり!」
初めて見たサラの気持ち、表情。
「やっと、本当の気持ちぶつけてくれた。でも」
胸がチクりとする、けど同時にダイヤに沸き起こる別の感情。
「それってただの八つ当たりじゃんか!!」
それは怒り。
「はあ?!アンタに何が分かるのよ!!ただの色を課せられて私がどんな気持ちでいたのか、私がどれだけ家族の中で哀れまれてたか!!」
「だったら!!サラはボクの気持ち分かるのかよ!!珍しい物を見るように見られて、ボクはずっと嫌だった!!こんなふうに見られるんだったら原色の【赤】なんて欲しくなかった!!」
「生意気言ってんじゃないわよぉ!」
またサラは鞭を構えると飛び掛かる。
ダイヤも応戦するため走り出した。
「おいおいダイヤの奴言い合いになってンじゃねーか!説得じゃなかったのかよ」
「二人共凄く怒ってるわ」
まさかの展開にチェシャとアリスは驚くがメアリーは動じず笑っている。
「ええんちゃう?あの子ら今まで思っとった事言い合えとらんのやろ?好きなだけ言い合えばいいやないの。腹ん中のもん吐き出したらスッキリするわ」
「嬉しそうだな」
「さあ?さて」
あっちはどうやろ。
視線は少女達から少年達へと移った。