カラーレス達を奇襲する。
納得いかなかった。
他にも方法はあるんだ。
ダイヤは己の拳をぎゅっと握る。
「ボクは行くよ」
はっきりとした口調に強い眼差しを玉座のエミリアやトランプ兵達に向ける
と驚きの視線。
「アナタご自分が何を言っているのかお分かりかしら?」
「わかってるよエミリア卿。これはボクの決心」
「今までアナタ方に酷いことをしてきたカラーレスを助ける気ですか?」
「うん。最初は大怪我したり辛いめに合わされてカラーレスを敵だと思ってた。でも、今はそう思えなくなった」
そう思えなくなった、その意味は。
メアリーは夢であったことを思い出した。
「ボク、カラーレスと夢の中で会ったんだ」
記憶に残る苦しそうに顔を歪めて泣くカラーレスの姿。
思い出す度に胸が締め付けられた。
「泣いてたんだアイツ。誰かに助けて欲しがってた。本当はこんな事もうしたくないんだと思う。助けられるのはボク達しかいない。それにサラとスペンドの事もあるしほっておけないから」
「下手をしたら死にますわよ?」
「それでもいい後悔したまま生きるよりマシだ。…ここからはボク一人で行くから」
振り向き出口に向かおうとするダイヤにタクトが立ちはばかる。
「どいてよ隊長」
「これは女王に対する反逆と見なしていいのか?帽子屋娘」
「だったらどうすんの?」
「牢に強制連行だ」
腰の刀に手を掛けたタクトにダイヤも自分の銃を取り出そうと手を伸ばしたその時。
「「なら俺/ウチも反逆者になる」」
響き渡る二つの声。
今度はダイヤが驚いた顔をして声の主を見る。
「ロウ、メアリーどうして」
「ダイヤが嘘をついてるとは思えないしもうお前だけに背負い込ませない。俺も一緒だ。それに言っただろ?アイツらとちゃんとぶつかる。道を誤ってる妹と弟を正すそれも兄貴の役目だからな」
「ウチも付きそうで。ここまで来たら腐れ縁やしな」
「腐れ縁、確かにね」
思わず笑ってしまった。
様子を見ていたタクトが手を上げるとジョーカーとワンが武器を手にタクトの両側へと立つ。
「おっと奴さんやる気満々やで」
「ダイヤ何か策はあるのか?」
「ない!」
「えぇー…やっぱり。やと思ったわ。でも強行突破はちとキツいやろうな」
ちらりとメアリーが背後に視線をやると下っぱトランプ兵達が周りを囲んでいる。
前にはトランプ兵団の隊長に幹部兵。
どうする?
「がっ!?」
叫び声にバタバタと数人が倒れる音。
「オレ等の事忘れてんじゃねーよ!」
ダイヤ達の背中に自分達の背中を合わせるようにして立ったのはチェシャ、アリス、キャンディ、リエヴル。
「みんな」
「あらチェシャおったん?」
「いたよ!!!メアリーてめぇ白々しいんだよ!つーかこんな時まで言うか!?」
「チェシャくんの事はどうでも良いけど私達もいるわよ!ダイヤちゃん!」
「そうなのチェシャの影が薄いのは今に始まったことじゃないのーと言うのは置いといて、わたしもダイヤの味方なのー」
「お前らヒッデェ!!!泣くぞ!!!」
「チェシャどんまいっす!ロウさんおれも地の果てでもどこまでも御供するっすー!」
「猫や三月兎もか。ワン、ジョーカー、お前達、帽子屋達を捕らえろ!」
「「「はっ!」」」
抜刀したタクトが叫びトランプ兵達が飛びかかろうとした、が誰一人として動かない。
いや動けない。
「なんだこれは」
タクトは状況を把握しようと目を動かすと自分、そして部下達の足下に浮かんでいる魔法陣に気づく。
これは女王に仕える白兎の術の陣。
「ビット…!」
「申し訳ありませんタクトさん。後でどんな罰も受け入れます。ですが友の為今は僕の独断で好きにさせて頂きます!」
トランプ兵達がどんなに動こうとしてもビットの術の方が強いのか指一本動かす事が出来ない。
「(僕はとんでもないことをしてしまいましたね、下手したら首切りでしょうか。でも今ならわかります。チェシャ、君が何故女王の元から離れ自由を選んだのかを。ただ言われるがまま仕えることが正解ではない!)このままおとなしくしてもらいますよ!」
ビット、チェシャは目が合うとお互い笑い合う。
チェシャが野良になると言い城から去った時、何故か分からずしこりがあった。でも今はそんなものは無く清々しい気分だ。
「うーん…」
今にも衝突しそうな面々を参戦していないクロッカは遠目で眺めていた。
おろおろとしながら隣にいるビルに安心させるように声を掛ける。
「落ち着きなよ蜥蜴くん」
「…でも…このままじゃ…」
「それもそうだね。アタシの時間停止で沈静させるのも出来るけどそれじゃダメだね。で?どうするエミリア」
「…」
エミリアはただ静かに見定める。
もう不安分子のカラーレス達を排除するしかないと思っていたが。
(大人のワタクシ達が諦めたことを子供の彼等はまだ諦めていない、と言う事は可能性はあるのかしら)
少しだけ期待をして良いのだろうか?
ふっと笑うとエミリアは立ち上がり玉座を降りる。
「お止めなさい。タクト、トランプ兵達」
皆の注目が集まる。
エミリアはそのままダイヤやタクト達の元へと歩いていく。
空気が変わったことに気づいたビットは魔術をとき動けるようになったトランプ兵達は女王を前に姿勢を正した。
「エミリアどうした」
「もう良いのですタクト。ワタクシは諦めますわ」
「何故」
「アナタも分かっているのでしょ?この子達はどんなに引き止めても止まりませんわ。それに…賭けてみたくなりました」
くるりと振り向きダイヤ達を見る。
賭けてみたくなった、この子達にある可能性に。
「アナタ達に全てお任せします。必ず帰ってきてください」
「当たり前じゃん!全部終わらしてくるよ」
間髪入れずに答えるダイヤにクスリとエミリアは笑った。
「最後まで見届けましょう。この結末を」