白兎とは代々ハートの女王に使える一族である。
時間に遅れず、使える者として知識を豊富に持つそれが白兎。

彼、灰色の白兎ビットも例によってそうだった。
だがビットには難点が一つあった。
彼は生真面目過ぎた。

「ちゃんと申請を出してきてくれたまえ」
「だーかーらー!別に良いだろっつてんだろうがぁああ!!」

色の国の中心にそびえ立つハートの女王城の門前で言い争う声が響いていた。
一つは短気に相手に突っ掛かるチェシャの声。もう一つは坦々と答えるビットの声だ。
この二人はよく口喧嘩をしている姿が目撃されていて今日も顔を合わせたとたんにこの調子である。

「ビットお前そのクッソ真面目な性格何とかした方が良いと思うぜ?」
「君こそ、その馬鹿みたいな性格を何とかした方が良いですよ…所で」

このままでは埒があかないと思ったのだろうビットは話を変えようと切り出した。
その視線はチェシャの後ろへと向く。そこにはダイヤ、ロウ、メアリーといつもの三人組が居てもう一人の見知らぬ少女、アリスがダイヤに抱きついていたからだ。

「どんな状況ですか?」
「ああ話せば長くなるんだけどよぉ」

遡ること数十分前…

情報を求めチェシャとアリスはダイヤの家へとたどり着いた。
中から騒がしい声が微かに聞こえてきたためロウとメアリーも居るなとチェシャは思った。
くるりと振り向くとアリスは目を輝かせていた。

「アンティーク調のお家可愛い!」
「(女ってーのは何でこうもアンティーク系が好きかねえ?まあいいか)アリスさっさと中のヤツに会いに行くぞ」
「ここのお家の人よね?どんな人なの?」
「んー何て言うかチビッ子だな。まあでも【赤】の帽子屋をしてるから立派なもんだな。よし呼び鈴鳴らすぞ」
「赤の…?」

「【赤】の帽子屋」部分にアリスは首を傾げるがチェシャは気にもせず扉の隣に設置されている呼び鈴を鳴らした。
呼び鈴を鳴らし、少しすると中から足音が聞こえてくる。その足音が扉の前で止まるとガチャリと扉が開き目的の人物が顔を出した。

「はーい。あっチェシャじゃん。家に来るって珍しいね。どうしたんだよ?」
「よお!ちょっと聞きたいことがあってな」
「ふーん?あれそっちは?」
「ああアリスって言って森の中で知り合ったんだよ。アリス、コイツがさっき言ってた帽子屋のダイヤだ…おい?アリス?」

簡潔にアリスにダイヤの事を紹介するがアリスはボーッとダイヤを見つめていた。
心なしかその頬は赤くなっている。
何事かとチェシャはアリスに声を掛けようとしたその時だった。

「かっ」
「「か?」」
「可愛いぃいいいー!!!」
「うわっちょっと!?」
「うおぉいっアリス!?」

それはもう素早い動きだった。

流石のチェシャも何が起こったかわからなかったが、アリスがダイヤに勢いよく抱き着いた様だ。
二人の少女の抱き合い、と響きは可愛いものだがアリスの抱き付きはそれはもう強烈なことになっている。

煙が出る勢いでダイヤに頬擦りをし、体が締まるぐらいにぎゅうぎゅうと抱き締めていた。
よだれが出ている気がしたが見なかったことにしよう。

「はああああん可愛い可愛い可愛い可愛い!」
「お前何!?ちょっ離せ!ボクが何したってんだよー!?」
「ボク!?ボクっ子なのね!!?つり目な顔にこのニーソ絶対領域な服!!!スッゴく可愛いぃいいい!!」
「意味がわからない!チェシャも何とかしてよ!」

チェシャはこの時激しく後悔した。

(…連れてくるんじゃなかった)

チェシャが途方にくれていると奥の部屋からロウとメアリーが顔を出した。

「ダイヤ何かあったのか?」
「もう何やの騒がしくておちおち茶も飲めんわ」

ロウは首を傾げながらメアリーは溜め息をしながらこちらを見るとピシリと固まった。
なんだコレ。

「何やの。この状況」

ポツリと呟いたメアリーの一言がアリスにも届きダイヤからメアリーへと視線を向ける。その目はまたキラリと光った。

「中からまた綺麗なお姉さんが!アルビノ色白お姉さん素敵…!!!」
「このお嬢ちゃん誰やねん?ちょっとチェシャ。アンタが連れて来たん?」
「あーそうなんだけどな。正直すまんかった。まさかこんなヤツだったなんてな…」
「アンタが連れてるって事は迷子やな?しかしえらいの連れて来たなぁ。アレどうするん」

アレ?とチェシャはメアリーの指差す先を見るとロウとアリスがダイヤを巡って言い争っていた。
「ダイヤを離せ」とか「嫌よもっと抱き締めていたい」等言ってる。
当のダイヤはげっそりしているが。

チェシャはもう収集つかなくなってきたとまた途方にくれた。


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