後継ぎ諸君、如何お過ごしだろうか。
急ではあるが親族会議を執り行う事になったので一筆させて頂いた。
親族会議の内容は今世間を騒がしている事件について。
日にちは急ではあるが五日後。
必ず出席する様に。
では諸君等の日々の健闘を祈っている。
帽子屋一族。
(まさかとは思ったけどこんなにも早く呼び出しくらうとは思わなかったな…)
一族の親族会議当日の朝。
五日前に届いた手紙の内容を思い出しながらダイヤは自分の部屋に置いてある姿見様の鏡で自身の姿を確認していた。
いつもと違う帽子、黒いジャケット。
近くの棚から大事そうに小箱を取りだし蓋を開けると真っ赤な宝石で出来たダイヤの形をしたブローチ。
それを胸元に付け再度鏡を見るとそこには後継ぎとしての自分が映っていた。
またこの格好をするとはね、と呟く。
コンコン。
「ダイヤ、入っていいか?」
「いいよ」
控えめにされたノックの後に投げ掛けられるロウの声。もうそんな時間かとダイヤは気づき返事をする。
ガチャリと扉が開くとこちらもいつもと違う帽子にダブルコート、胸元にクローバーのブローチを付けたロウが入ってきた。
「お、何だかお前の正装久しぶりだな。…昔みたいにスカートじゃないのか?」
「いつの話を…これじゃ変なの?」
首を傾げたロウに溜め息を付きながらダイヤは言う。
ロウはニコリと笑うと
「いや似合ってるよ、じゃあ行こう。外に迎えが来た」
そう言い、エスコートするようにダイヤへと手を出した。
ダイヤは少しだけその手を見つめるとおずおずと自分の手を重ねる。
素直になってくれたダイヤに満足したロウはそのまま外へと向かった。
外に出ると馬車が一車にそれを囲んで物珍しく見ている見慣れた後ろ姿が数人。
「専用馬車…こう見たら本当にアイツらボンボンなんだな。世界が違うぜ」
「僕は見慣れてます」
「やろうな、女王さんに使えとるけん尚更やわ」
「おっきいわ。あっダイヤちゃん!ロウくん!」」
「!」
見慣れた後ろ姿はチェシャ達であった。
ダイヤは驚き皆の元へと駆けていく。
「チェシャ、アリス、ビットにメアリー!こんな朝早くにどうしたんだよ?」
「どうしたって、お前らが留守になるってメアリーから聞いたんだよ」
「それで見送りに来たのよ」
どうやらメアリーが他のメンバー達に伝えていたらしく、その事をチェシャとアリスはダイヤに説明する。
「そっか。ありがとう。親族会議が開かれる屋敷まで移動で半日くらい掛かるから数日は帰ってこれないかも」
「了解や。ダイヤ頑張ってくるんやで!…あとロウ今度こそしっかりダイヤを支えるんやで」
小さく呟かれたメアリーの言葉にロウはしっかりと頷く。他のメンバーは聞こえなかったのか不思議な顔をした。
「…それにしても、今日のシックに決めてるダイヤちゃんカワィイイ!」
「!」
アリスはダイヤを見つめながらはあはあし始める。
手をわきわきと動かしながらダイヤに詰め寄ろうとするがビットに首根っこを掴まれ阻止された。
「アリス今日は止めておきなさい」
「いやーん!暫くダイヤちゃんに会えないんだもの!抱きつかせてー!」
「駄目です」
ぽいっとアリスはメアリーとチェシャの方へと投げられる。
半泣きなアリスをメアリーは頭を撫でてやり、チェシャはアイツ扱いに慣れてきやがったな…と何とも言えない目で見つめた。
ビットはコホンと咳払いを一つ。
「…さて本題に戻りますが君達にも知らせなくてはいけません。例の事件、カラーレスによる色の略奪がまた起こり始めました」
「またか?ここ最近は止まってたんじゃないか?」
眉を寄せながらロウはビットに尋ねると彼も難しそうな表情で答えた。
「そうなのですが再発しているのは事実。カラーレスは原色だけに狙いを定めたはずでしたが…彼に誰かが入れ知恵をしているのかも知れません」
「まさかサラ達?」
ダイヤの言葉に頷いて見せる。
今のカラーレスと繋がりがある人物はサラとスペンドの二人だけだ。
何故他の色まで狙う目的はわからないが。
「また被害者が出始めてます。今までカラーレスについて調べてきましたが打開策が見つからないまま。そこで僕は旧図書館に調べに行こうと思います」
「旧図書館?何それ」
聞いたことないといった顔のダイヤにビットは説明する。
「街外れにある旧の図書館です。そこにはもっと古い文献が保管されていると聞きましたので、リエヴルさん達と一緒に行ってきます」
「そうか…そっちも頼んだぞビット」
「任せてください、必ず手掛かりを見つけてきます」
そう言いロウは自分の拳を目の前に出すとビットも自分の拳を出しタッチする。
すると馬車の運転手がダイヤとロウに向けて声を掛けた。
「ダイヤ様ロウ様。そろそろ出発致しますのでお早く」
「はーい!」
「すまない。今行く。」
返事をするとダイヤとロウは忙しなく馬車の中へと駆け込む。
運転手に丁寧に扉を閉められゆっくりと動き出す。
ダイヤは馬車の窓を開け身を乗り出した。
「皆いってきます!」
大きな声でそう言うとチェシャ達は手を上げて答えてくれた。
チェシャ達が見えなくなるまで窓の外を見る。
たった数日間会わなくなるだけなのに酷く寂しい気分だ。
暫くして窓を閉じて大人しく座ると目の前に座っているロウと目があい
「いよいよ親族会議、か」
「うん。気合い入れないとね」
ダイヤはにっと笑って見せた。